江戸前期創業 変わらぬ味がうれしい日本の洋食店

カレーの店 タカサゴ(東京・竹橋)

retroism〜article31〜

 この世でそう多くは存在しない、真実の一つが、老舗の洋食屋「カレーの店 タカサゴ」(以下タカサゴ)にはある。

 「本質は細部に宿る」というそれだ。見事なほど細部にこだわり、老舗らしく、一ミリたりとも手を抜かずに料理を作っている。

あらゆる場所でカレーを食べた人にとっても、ここのカレーは初めての味になる。オーソドックスだが個性が光る味だ。カレーがポットに別盛りなのもシビれる

 例えば、名物ヒラメのフライ。サクッとした衣を噛(か)み切るや否や、白身の淡白だが深いうまみが口の中に充満する。白身魚のフライは基本うまいが、ヒラメとくるところがなんとも老舗らしい。思えば昭和にあった洋食屋の魚フライはヒラメが定番だった。問題は、添えてあるタルタルソースだ。まともな洋食屋なら、自家製を使うのは当然で、もちろんタカサゴも同じ。他と違うのは、入れるピクルスまでが自家製なのだ。その効果は、素人の我々には、はっきりとはわからないが、確実に個性的なうまさをひきだしていることだけはよくわかる。

「ソースでもおいしいですよ」と、店主で12代目の熊谷浩晃さんが自信ありげな表情で、テーブルに備えてある調味料を指さした。「このソースは店で作っているわけではありませんが、一般には出てない、業務用のものです。トロッとしたソースで、少し甘めだと思います」。ウスターソースともとんかつソースとも違う、なんとも揚げ物によく合うソースなのだ。

ヒラメのフライ。タルタルソースは一度味わったら忘れられない。定食のおかずには、必ずつくスパゲティも手抜き一切なしだ

 他のメニューも同様にきめ細やかな配慮が行き届いている。カレーは、小麦粉を炒めるところから始まる、昔ながらの洋食屋の手法を用いて、基本のカレーソースを作る。それを寝かせ、ビーフカレーには牛肉を、ポークカレーには豚肉をさらに入れて煮込んで仕上げる。だから、カレーによってルーの味が、絶妙に違うのである。

 もともとタカサゴは、別名で、1650(慶安3)年に創業した。江戸前期だ。基本的にはずっと、「ご飯屋」だったと、熊谷さんが言う。タカサゴという屋号になった年代は、はっきりはわからない。ただ、熊谷さんの父親が店を継いだ頃からなのだけは確からしい。

「自分たちが食べたくないものは出したくない。昔ながらの作り方で手間暇を惜しまずに料理を作る。味は出す前には必ず味を見ないと怖いです」と職人気質丸出しの熊谷さん

「最初はカレー屋でした。専門店だったんです。カレーだけではなんなんで品数を増やし、数年後には、ほぼ今と同じメニューになりました」。洋食屋タカサゴの始まりだ。「それからほとんどメニューは変化してません。私が入った時に、ポークピカタなど少しだけ増やしましたけど」。供する料理を変えないのは、味に自信があるから、変える必要がないのだ。「近所にある商社のお客様も来てくださいますが、彼らは海外赴任も多い。日本に戻って来店くださって、味が変わってないって喜んでくれるのがうれしいんです」

東京のど真ん中にある店で、ショーウインドウは天然記念物のようなもの。サンプルもほぼ昔のままだという

 タカサゴで食事をすると、日本の洋食の味とはなんだろう、と改めて考えさせられる。フランス料理に代表される西洋料理とも違う。ましてや、中華料理やアメリカの料理でもない。「洋食は、日本人の口に合わせた料理です。海外の料理を和食化したものなんです」と熊谷さんは明確に定義した。それは、日本が明治以来繰り返し行ってきた、海外のモノを日本独自の解釈で再構築する作業と一致する。言い換えれば、日本のお家芸だ。「だから、洋食屋のカレーは、インドカレーとは違う『洋食屋のカレー』でしかないんです。それ以下でも以上でもありません」

なぜ黒電話なのかとの問いに熊谷さんは「必要ないからです」と素っ気ない。「若い人に、これなんですか?って聞かれます。逆にプレミアつくんじゃないかって思ってるぐらいです」

 熊谷さんは、洋食が好きだと言う。昔から食べ慣れた好きな味を、再現して作っているだけだとも言う。「別に、古いものを残そうとか、店の伝統を守ろうとか、あまり意識はないんです。息をするように料理を作っている感じです」

福神漬け、つぼ漬け、そしてシソの身などの入った漬物。「ご飯を真緑にして、おかずのようにして食べる人もいます」と熊谷さんは苦笑い

 そんなタカサゴの料理が教えてくれるのは、料理にとって最も大切なのは、説得力ではないかということだ。「うちの料理には隠し味にしょうゆを使います。なぜなら、日本人の舌には一番合うと思うからです」。生姜(しょうが)焼き以外は醤油の味を感じないが、食べると納得させられるのは、そのせいらしい。「カレーは、欧風をうたっているので、生クリームを入れてます」。そう言われてカレーを食べると、ほんのりとクリーム系の味が奥に潜んでいて、欧風という言葉にうなずかざるを得ない。

シンプルなエントランスにシンプルな店名ロ
ゴ。しかし、料理の中身は濃厚そのものだ 

 タカサゴが供する料理の味は、一言で言い表すことが可能だ。つまり、全てがかつて我々が好んで食べていた、納得の味なのである。

かれーのみせ たかさご
東京都千代田区一ツ橋1-1-1パレスサイドビル B1F
📞03・3214・2520
営業時間:午前11時15分〜午後8時
定休日:土、日、祝
文・今村博幸 撮影・岡本央
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