江戸前期創業 変わらぬ味がうれしい日本の洋食店

    「ソースでもおいしいですよ」と、店主で12代目の熊谷浩晃さんが自信ありげな表情で、テーブルに備えてある調味料を指さした。「このソースは店で作っているわけではありませんが、一般には出てない、業務用のものです。トロッとしたソースで、少し甘めだと思います」。ウスターソースともとんかつソースとも違う、なんとも揚げ物によく合うソースなのだ。

ヒラメのフライ。タルタルソースは一度味わったら忘れられない。定食のおかずには、必ずつくスパゲティも手抜き一切なしだ

 他のメニューも同様にきめ細やかな配慮が行き届いている。カレーは、小麦粉を炒めるところから始まる、昔ながらの洋食屋の手法を用いて、基本のカレーソースを作る。それを寝かせ、ビーフカレーには牛肉を、ポークカレーには豚肉をさらに入れて煮込んで仕上げる。だから、カレーによってルーの味が、絶妙に違うのである。

 もともとタカサゴは、別名で、1650(慶安3)年に創業した。江戸前期だ。基本的にはずっと、「ご飯屋」だったと、熊谷さんが言う。タカサゴという屋号になった年代は、はっきりはわからない。ただ、熊谷さんの父親が店を継いだ頃からなのだけは確からしい。

「自分たちが食べたくないものは出したくない。昔ながらの作り方で手間暇を惜しまずに料理を作る。味は出す前には必ず味を見ないと怖いです」と職人気質丸出しの熊谷さん

   「最初はカレー屋でした。専門店だったんです。カレーだけではなんなんで品数を増やし、数年後には、ほぼ今と同じメニューになりました」。洋食屋タカサゴの始まりだ。「それからほとんどメニューは変化してません。私が入った時に、ポークピカタなど少しだけ増やしましたけど」。供する料理を変えないのは、味に自信があるから、変える必要がないのだ。「近所にある商社のお客様も来てくださいますが、彼らは海外赴任も多い。日本に戻って来店くださって、味が変わってないって喜んでくれるのがうれしいんです」


東京のど真ん中にある店で、ショーウインドーは天然記念物のようなもの。サンプルもほぼ昔のままだという

 タカサゴで食事をすると、日本の洋食の味とはなんだろう、と改めて考えさせられる。フランス料理に代表される西洋料理とも違う。ましてや、中華料理やアメリカの料理でもない。「洋食は、日本人の口に合わせた料理です。海外の料理を和食化したものなんです」と熊谷さんは明確に定義した。それは、日本が明治以来繰り返し行ってきた、海外のモノを日本独自の解釈で再構築する作業と一致する。言い換えれば、日本のお家芸だ。「だから、洋食屋のカレーは、インドカレーとは違う『洋食屋のカレー』でしかないんです。それ以下でも以上でもありません」

なぜ黒電話なのかとの問いに熊谷さんは「必要ないからです」と素っ気ない。「若い人に、これなんですか?って聞かれます。逆にプレミアつくんじゃないかって思ってるぐらいです」

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