古き良き風習「餅つき」「鏡餅作り」を懐かしむ

 それらの作業を、すっかり隠居状態になった祖父が腕を組み、おっかない顔で眺めていた。息子や娘、孫がしっかりと仕事をするかを監視しているようだった。その姿は子供ながらに「大黒柱」を思わせ、頼もしかったのを覚えている。

 火鉢に起こした炭を使うのが伝統的な焼き方である。少しずつ膨らんでいくのが面白く、その様子を火に手をかざして指先を温めながら飽きもせずに見ていた。餅の上が十分に膨れたら食べ頃だ。食べ方はいろいろだった。きな粉をまぶして安倍川にしたり、あんこと一緒に。またはしょうゆをつけてのりで巻いて食べるのもうまい。母の実家では、砂糖じょうゆにつけた菓子的な食べ方も一般的だった。もちろん具沢山の雑煮もあった。しょっぱい味と甘い味を交互に楽しみながら、にぎやかな一年の始まりを堪能した。昭和の正月には石油ストーブの上で餅を焼く光景がどこの家庭でも見られた

 今は、スーパーマーケットで透明のプラスチックに入った鏡餅や、おせち料理を買うのが一般的になってしまった。が、昭和の頃までは全てが人の手によって作られていた。集まった女性陣たちは、それらの作業に追われて忙しかったが、年が明けるとのんびりと過ごした。大きなお膳に並べられた料理を食べ、大人たちは酒を酌み交わして楽しそうにしているのを子供だった筆者も満ち足りた気持ちで眺めていた。新しい年が始まる期待を一心に抱えながら……

 核家族化が進んだ都会では、消えてしまった時間。地方では、いまだに同じような風景は見られるのだろうか。1月11日、カチカチになってしまった餅を木槌で割って鏡開きだ。12月の暮れから楽しみにしみにしていた正月が終わる寂しさと、学校が始まり、仲のいい友達と再会できた喜びが心の中で、入り交じっていた。

 明けましておめでとうございます。本年もレトロイズムをよろしくお願いいたします。

文・今村博幸




 

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