昭和グッズと熱き心に触れ、極上の珈琲を味わう

 昭和堂で供されるコーヒーは、ブレンドやストレートなど一通りをそろえる。全て豆を引くところから始まり、ハンドドリップで丁寧に1杯ずつ完成させる。豆の種類によって、蒸らし方や湯を注ぐスピードなどを変える。全てが通った喫茶店で「盗んだ」技術である。習得された方法論とともに、「女性には伝わりにくいかもしれませんが」と前置きをした上で、極意を畑中さんが明かしてくれた。「初めてキスをしたときにように淹れるとうまくいきます。デートの時、どのタイミングでキスまで持っていくか、ドキドキしながら考えて、その時が来たら、彼女が受け入れやすいように、『そーっ』と顔を近づけます。お湯もそんな感じで最初はそっと注ぎ始めて、そこからは『大胆に』がコツなんです」。畑中さんは少年のような笑顔で言った。

ブリキの看板には、不思議な説得力があった。周りのさびた部分も郷愁を誘う

 彼にはもう一つ大きなこだわりがある。「私が飲んでおいしいと思ったコーヒーだけをそろえてお出しします」。彼が思うおいしいコーヒーとは、「コクと苦味がしっかりありますが、味の透明度が高いのが理想です。澄み切ったコーヒーとでも言いますか。カップに入れたスプーンが反射する光が見えるくらいが目標です」。機械では絶対に出せない、人の手が生み出した味は、身体と心の奥深くに染みわたっていく。土台にあるのはパッション(情熱)である。昭和から残る品々が持っているのも、ノスタルジーというよりも、パッションだと畑中さんは言う。「時代を生き抜いてきた品物の数々の裏には必ずパッションが透けて見えます。それをノスタルジーとして再確認するから、昭和のグッズと共に過ごすことに居心地の良さを感じるんだと思います」。その情熱は、みんなが共有できるものが多いとも畑中さんは優しい声で言った。

1957(昭和32)年に開発されたアーケード
商店街に店はある。店頭に立つマスコット
であるロボットの「しょーわーくん」は子ども
たちのアイドル的存在で、「朝『おはよう』
  って
声をかけてくれるんですよ」と畑中さん  

「古いものがいいのではなくて、いいものが古くなって残るんです。魂なき出来損ないは排除されて消えていきます。昭和のいいもの、まだ残っているもの。商品も人の心も、受け継がれている魅力的な全てが、この先も生き続けてほしいと思っています」。店頭には、畑中さん手作りのロボットが立っている。「昔のロボットのイメージは、部品をリベットで打ってあって油の匂いがして……。僕らにとっては昭和の象徴そのものです」

 そんな古き良きモノと熱き心に出合える場所。昭和堂の存在理由はそこにある。

きっさ しょうわどう
横浜市旭区万騎が原34-1
📞070-5464-9116
営業時間:午前10時〜午後6時
定休日:火曜、水曜
文・今村博幸 撮影・JUN

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コメント

  1. Keiji Yamazaki より:

    一歩ドア開けるとタイムスリップするような昭和堂さん。店内の品々を見てるといろいろな思いが横切りホッと癒してくれる至福の時間です。
    マスターの煎れる珈琲は絶品。

    • SHIN より:

      レトロイズム〜retroism visiting old, learn new〜をご愛読いただきありがとうございます。コーヒーはもちろんのこと、フードや飾られているモノに対するマスターの深い愛情が感じられますね。