「昭和の暮らし」から学ぶサステナブルな営み

 他にも、昭和の人間にとっては当たり前でも、現代っ子たちが目を輝かせる事柄は少なくない。「今の小学生は、座布団がわからない。イスやソファーが当たり前ですからね。押し入れも今ではクローゼット。『ドラえもんが入ってる場所だね』とか、母親に聞いたことのあるこたつに入るのが夢っていう子もいますよ」と小林さんが優しい目を細めた。

 もう一つ大きな特徴は、「五感で感じる博物館である」ことだ。小林さんが、得意げな表情で言う。「実際に45年間、人が住んでいた家屋を保存しているので、音やにおいが残っているんです。窓ガラスが揺れる音だとか、炭のにおい、湿気がある日だと、畳の香りもしますよ」。ガラス窓の一部、天井や柱、家の造作も極力当時のままで残してある。使った人の息遣いが染み込んだものを今の人たちに伝えたいとの思いがあるからだ。「火鉢をただ見せるのではなくて、炭を入れています。『火鉢の日』と銘打って、用意した餅などをあぶって食べてもらったりもします」

玄関を入って小さな洋間を抜けた4畳半の部屋には掘りごたつや茶だんす、火鉢があった。昭和の食事が再現されている

 どくだみや柿の葉を干して、お茶にするなど、昔の知恵を再現して体験してもらう。庭の梅の木から梅が採れたらジュースにする。たらいと洗濯板も、使い方を見せながら伝える。縁側は広い開口部を確保できる一軒家の特徴でもあるが、風がよく抜ける仕組みになっていて、周りに緑を多く配することで、真夏でも涼しい。南面に窓を設けて冬場でも暖かさを取り込める造りも昔ながらだ。

 家族が助け合って暮らしていたのも昭和の特徴だ。家事を含めさまざまな暮らしに必要な「仕事」は、助け合ったり手伝わないと成り立たなかった。子供も役割を果たすことで、人として必要な思いやりや工夫を学んだ。親の苦労もそこで知る。さらに近所やコミュニティーの中で、ミシンや電話を貸し借りしないと生きていけなかった。「今はそのあたりが希薄になっていると言われていますが、当館に来てくださる人を拝見していますと、人のつながりも戻ってきていると感じることがあります。うれしいことですよね」

内外装ともにほぼ建てられた当時のまま
に保存されている。庭には家庭菜園や鶏
小屋もあった。国の登録有形文化財だ 

 人々の「暮らし」から昭和を見直すのは、令和のいまなのかもしれない。それは、これからの人たちに必要な視点である「古きを温(たず)ねて新しきを知る」の精神にほかならない。

しょうわのくらしはくぶつかん
東京都大田区南久が原2−26−19
📞03・3750・1808
営業時間:午前10時〜午後5時(金、土、日、祝)
定休日:月、火、水、木
文・今村博幸 撮影・JUN

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