人生で必要なことは、すべて銭湯が教えてくれた

コラム其ノ捌(特別編)

retroism〜article72〜

 「おかみさーん! 時間ですよー!」

 そんなセリフで始まるテレビドラマ「時間ですよ」は、子供にとってはかなり刺激的だった。いろいろな意味でワクワクする人情ドラマでもあった。

 主題歌である「東京下町あたり」は、銭湯とはなんぞやという問いに見事に答えた名曲である。「曲がりくねった露地に人のこころが流れ/忘れかけてたものを誰もが不意に想い出して行く♪」という出だしから、一昔前の風呂屋を含めた町の有りようが語られている。「なじみばかりの顔は胸の中までわかる/悩みあるならそっと耳打ちしてよ遠慮はしないで♪」

外と別世界(極楽浄土)とを区切るのれん。入り口には必ず「のれん」があり、銭湯を構成する粋なアイテムの一つだ

 銭湯には、人間同士の繋がりがあったし今でもそれは健在だ。仕事でうれしかったことから愚痴まで、番台のおばあちゃんやおじちゃんに聞いてもらえる人生の潤滑油のような存在でもある。体の汚れだけではない。生きることがつらいと感じてもたっぷりのお湯に浸かれば、奇麗さっぱりそれらを洗い流すことができたのだ。「東京下町あたり/雨の降る日も風の日も/人のこころは同じ/何もかも人間は生きている♪」。風呂好きと言う「同じ価値観」の中で、肩を並べて湯に浸かる。時には顔見知りのおじさんの背中を流すこともあった。少し熱めのお湯は、「生きている」幸せを、体の芯から湧き上がらせてくれた。

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