人生で必要なことは、すべて銭湯が教えてくれた

 風呂上りの楽しみは、なんと言ってもコーヒー牛乳の右に出るものはないだろう。乾いた喉に、にがみはないがコーヒーの香りの牛乳を飲むと、なんだか大人になった気がした。いちご牛乳は、子供のための飲み物で、男の子としては、コーヒー牛乳で大人の気分を味わいたかった。もう一つ定番の風景があった。硬く絞ったタオルで体を拭くのだが、半分以上の確率で、タオルを体にパンッ、パンッとたたきつけて体についた水分を拭くおじさん。子供ながらにまねしたかったが、うまくできなかった。大人になって、たまに銭湯に行くと、子供の頃できなかったパンッ、パンッ、パンッができたので、あれは大人の特権か? 実際にあれをやる子供は見た覚えがない。

湯ならではの傘入れは、今ほとんど見ることができなくなった

 現在、銭湯に行くことの意味あいは、昔とは少し違う。かつては銭湯に行くしか清潔を保つすべがなかった人は少なくなかったが、今ではほとんどの家に風呂がある。だから銭湯はレジャーランドの感覚だ。しかもかなりリーズナブルなレジャーだ。にもかかわらず、満足感は極めて高い。広々した湯船の中で、足を思いっきり伸ばして寛ぐのは、銭湯でなくてはできないぜいたくだ。さらに、多くの銭湯では、ビールも用意してあると聞く。汗を流した後のビールは最高だ。

 現代は、人と人が集うコミュニティが急速に消えつつある。極端な言い方をすれば、部屋の中に閉じこもって誰にも会うことなく、生活ができる世の中だ。食事をはじめ、何か必要なものがあれば、デリバリーで済ませられる。悩みは、友人や家族に相談することなく、Yahoo知恵袋にメールすれば、たくさんの人が答えをくれる。しかし銭湯には、その答えがすべて詰まっている。筆者は、速く走るためのコツを、知らないお兄さんから銭湯で教わったことがある。銭湯は、しつけも含めて学びの場所でもあったのだ。日本中から減りつつある銭湯は、なくなってはならない街のパーツの一つであることに疑う余地はない。

 「時間ですよ」の主題歌からもうワンフレーズ。

 「泣くも笑うもはだか/何もかも人間は生きている♪」

 歌詞が意味するところは限りなく深い。

文・今村博幸 撮影・柳田隆司、SHIN

※新型コロナウイルス感染拡大で、現在取材を自粛しております。当面、特別編や路地裏を歩くを配信する予定です。ご了承ください。

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