レコードがもっと好きになる アナログ文化発信地
そんなレコードを取り巻く状況は、今変わりつつある。レコードそのものに価値を見いだしている人も増えていると、竹野さんは分析する。「レコードは、モノとしてもすばらしい、愛すべきアイテムだと思います。例えば、ジャケットのせいだと思いますが、レコードにも匂いがあります。日本版は匂いがしませんが、UK版とアメリカ版では違う匂いがするんです」。頑張って買ったレコードを眺めた時に、モノのとして「持ってるぞ」、という実感を感じることもあると竹野さんはうなづく。
ゆずのサンプルレコードを手に説明する竹野さん。宣伝用に作り、抽選で当たった人だけが持っているという貴重な代物だ
音に関しても、見直されていると、竹野さんは力を込める。「本来人間が聞こえない音が出ていて、そこがうまみ成分だと言われています。私個人的にも、ちょっとしたチリノイズはないと寂しい。むしろ好きです」
CDショップの雄である、HMVがレコードに特化した店舗を渋谷にオープンさせたのは、2014年の8月だった。今は加えて新宿、吉祥寺にもあるが、どれも竹野さんが実際にオープンさせた店である。「14年の頭ぐらいから、HMVとして中古専門店を出そうと考えていました。その段階で、レコードも売りたいという考えも出てきました」。最初、新店舗は中古CDを売ればいいんじゃないかという話もあった。「しかし、CDの新譜が売れなくなっていく中で、中古を売るならば、やはりレコードが面白いという結論に達したのです」
ビル自体が元銀行で、ここは金庫だった場所。ずらりと並ぶのは、最も力を入れているジャンルの一つであるソウルやジャズのシングル盤だ
14年ごろのレコード市場は、その良さが見直され、盛り上がる寸前だった。背景には、CDを買わない客が増えたことがあるが、ちょうどPCやネットで音楽を聴く人が増えてきた時期とも重なる。一方で、海外では、レコードショップに人が並ぶという現象も起きていた。「日本でも同じ流れがくるのではないかと私たちは考え、レコードを扱うことに踏み切ったのです。まずは渋谷で2年間土台を作り、2年後に新宿、その半年後に吉祥寺でレコードショップをオープンさせました」
紙製またはビニール製のスリーブ(内袋)がまとめて売られている。「どこで売っているのかわからない、というお客様もいて、重宝がられてます」
竹野さんの表情は、自信に満ちていた。立て続けにレコードショップを展開したのは、その盛り上がりを肌で感じていたからである。「リスナーから、レコードが受け入れられている手応えは十分にありましたね」
棚に並ぶレコードは、多くが海外で買い付けたもの。現地の状況も見ながら、中古レコードを吟味して仕入れる。売り場は1階と2階に分かれていて、そろえるのはオールジャンルだ。1階が1960年代から最近のロックと日本のアーティスト、2階がソウル、ジャズを中心にそれ以外のジャンルも網羅する。EP版が充実しているのも頼もしい。さらに、日本人アーティストに関しては、90年代にリリースされた珍品もちらほら。ゆずのレコードサンプルまでもある。「これは珍品です。存在すら知らない人も多いはずですよ」。竹野さんはニヤリと笑った。
レコードに関するあらゆる書籍も充実。これからターンテーブルを買おうという人にとっても参考になる
アイテムが豊富なのはさすがだが、HMV record shopの最大の売りは人、つまりスタッフである。「レコードの難しいところは、商品の把握にあります。レコードの歴史も含めた知識がないと勤まりません。同じアーティストでも最近出たものから50年前に出たものまであるなど、知らないと恥をかいてしまう。レコードが好きなお客様は、詳しい人が多いですからね。だから一番難しいのは、スタッフを育てることです」
難しいと竹野さんは言いながら、それが一向に苦にならない、むしろ楽しんでいるようにも見える。「好きだけではダメなんです。自分でレコードを買う経験が必要です。ちょっと今風ではないですが、ガッツだとか気合が大切。経験や勘も必要です。そして最も必要なのは、古いものが好きだとか、骨董(こっとう)品に対する愛がないとできない仕事です」