なぜか知らねど ご当地ソングに思いをはせてみた

 コミックソング的な歌も、ご当地ソングにはあった。衝撃的だったのは、さいたまんぞうの「なぜか埼玉」だ。タモリのオールナイトニッポンの中に「思想のない音楽会」というコーナーがあり、そこで初めて全国に流されたと思う。確かに歌詞に、全く思想が感じられなかった。「なぜかしらねど〜、夜の埼玉は〜、ふけてゆく、ふけてゆく、埼玉の夜〜」で始まり、埼玉の魅力(?)を演歌調のメロディーに乗せて切り取っている。昭和歌謡は「懐メロ」とも呼ばれるが、少しセクシーな歌詞が使われることが多いというのも特徴だ。この楽曲の歌詞も、どこか妖艶な感じを漂わせる。一度聴いて笑いが止まらなかった。

大都会・新宿の裏通りは、なぜか夜が似合う。
この街で生まれては消えていった恋物語は数知れず⁉︎

 戦後すぐの頃から昭和の終わり頃には、さまざまなタイプのご当地ソングが多くリリースされた。旅情たっぷりの歌詞に、一度聴いたら忘れられないメロディーは、中高年の心の中に今なお息づいている。

 ご当地ソングといえば、昨年12月30日に逝去した八代亜紀の「なみだ恋」も印象深い。「夜の新宿裏通り〜」で始まる歌詞は、この街で散った恋の哀感を歌った昭和の名曲だ。

 心よりご冥福をお祈りいたします。合掌。

文・今村博幸