あしたのジョーを歩く

路地裏を歩く番外編(東京・山谷)

retroism〜article39〜 

 あしたのジョーの連載が始まったのは1967(昭和43)年12月。発表から五十余年たった現在、舞台となった東京・山谷はどう変貌(へんぼう)したのだろうか? そんな疑問を確かめるべく物語の舞台を歩いた。

ジョーの舞台と銘打って町おこしをしている
「いろは商店」の入り口には、ジョーのフィギ
ュアがある。今回の散策はここからスタート

 

 

商店街を歩くと、昔の看板建築らしきものも現れる。山谷周辺らしいのは、窓から見える障子がビリビリなこと。手すりもさびている

 

 

 

このあたりに住む人のためだけの、衣料品や
雑貨を売る店。値段もかなり抑えれれている

 

 

いろは商店街の脇道には、オンボロのアパ
ートらしき建物がちらほら。壁には意味不
明の絵が描かれ、しかも朽ち果てかけていた

 

 

いろは商店街から外れて、玉姫公園に行く途中にある日本堤交番。もしかするとジョーもここに捕まった?

 

 

玉姫公園は、現在はホームレスの溜まり場。あしたのジョーでは重要な場所でもある

 

 

玉姫公園の隣、玉姫神社にあるジョーのパネ
ル。フィギュアは実際のジョーの身長より大
きいと思ったが、こちらのほうが物語に近い

 

 

 ジョーのパネルの向かいにある白木葉子。ホセ・
メンドーサとの試合の前に、「すきなのよ矢吹く
 ん あなたが!!」と告白するシーンは泣けた  

 

 

玉姫神社の境内にかけられた絵馬。山谷にも信心深い人はいるのだ

 

 

細い短冊に書かれた「空室あります……」の文
字。とても泊まる気にはなれない外観だが…

 

 

入り口は結構パリッとしていると思っ
て上を見たら、やっぱりドヤ街だった

 

 

ドヤ街には「テレビあります」といった表
示が多い。中には、カラーテレビをうた
った
宣伝文句も。「冷暖房完備」も目につく

 

 

中には奇麗なホテルもあるが、道全体にはうらびれた空気が漂う

 

 

この下に川が流れ初代丹下ジムがあった。今は地下溝になり、その面影は全くない

 

 

隅田川に備えられた遊歩道。場所は正確には特定できないが、コンクリートの低い堤防でにもたれて、ジョーと紀ちゃんはデートした

あとがき

 かつて、「スポ根」という言葉があった。「巨人の星」や「エースをねらえ!」などの、「スポーツは根性だ」といった作品群である。我々は、生きる意味を物語から学んだ。中でも「あしたのジョー」は、金字塔と言っていいだろう。

 あしたのジョーには、珠玉の言葉がたくさん出てくる。最初に主人公の矢吹丈が後のトレーナーとなる丹下段平と出会うのは玉姫公園だ。「こんなところに公園が……しゃれてるじゃねえか」と言いながら公園に入っていこうとした時、酔って寝ている団平を踏み潰す。ここから物語が始まる。さまざまな悪行を繰り返し少年院に送られたジョーが退院し、ドヤ街の全員が喝采とともに迎えて、泪橋(なみだばし)のたもとのオンボロジムで宴会が開かれた。「ジョーが人間の愛になみだを流したのは今夜が初めてのこと」だった。

 念願だったライバル・力石徹との対戦では敗れるが、その試合がきっかけとなり力石は死ぬ。悔恨の情にさいなまれるジョーが、思い悩むのも公園のベンチに座りながらである。「殺しちまったよ」とつぶやいてベンチの下に突っ伏してしまう。ボクシングを辞める決心をしたジョーに、ゴーゴーバーで再会した白木財閥の令嬢・白木葉子が、「だいぶ前に、玉姫公園で突っ伏しているあなたを見たわ…、まだ突っ伏したままなのね」とジョーに詰め寄シーンも印象的だった。

 乾物屋の紀ちゃんと、最初で最後のデートをしたのが、川(おそらく隅田川)の脇の遊歩道だ。ここで初めて、あの有名な「まっ白な灰」という言葉が出てくる。「矢吹君はさみしくないの? 同じ年ごろの青年が恋人とつれだって青春を謳歌しているというのに…」と聞かれ、「ほんのしゅんかんにせよ まぶしいほどまっかに燃えあがるんだ そしてあとには まっ白な灰だけが残る…燃えかすなんかのこりはしない…まっ白な灰だけだ」と答える。

  舞台になった山谷周辺は、ずいぶん変わり、小ぎれいなビジネスホテルやゲストハウスもたくさんできた。しかし、まだまだ面影をしのぶことができる場所は残っている。

文・今村博幸 撮影・松本徹