国民車「てんとう虫」と共に40年

KATOMOTORS & collections(東京・清瀬)

retroism〜article22〜

「パラパンパンパンパン」

 シリンダー内のピストンが上下して、軽快なエンジン音を奏でる。昭和30年代から40年代にかけて耳に馴染んでいた音だ。通称てんとう虫と呼ばれていたスバル360。それを主に扱うのが、「KATO MOTORS & Collection」である。

昭和39年式のレアな一台。エンジンのリアゲートがルーバーデザイン(隙間を開けながら羽を水平に並べた模様)に変更されている(写真の一部を加工しています)
「中古車屋を始めた頃、軽自動車がわりと多く入ってきました。てんとう虫も結構あって、いっそのこと、中心にしちゃおうってことになりました」。以来40年、幾多のスバル360を受け入れ、この世に蘇らせてきた。代表の加藤登さんは、その魅力をこう話す。

車内は実にシンプル。ハンドルは白、ダッシュボードは鉄板むき出し、ビニールレザーのシートが特徴だ

「まず作りがしっかりしています。製造したスタッフは航空機の生産で培った確かな腕を持つ技術者であり、エンジニアも思い入れたっぷりです。当時の技術の粋(すい)を集めた軽自動車といえます」。少年のように目を輝かせて加藤さんが続ける。「空冷のツーサイクルのエンジンは、部品点数も少なく壊れにくい。他のメーカーだと、キャブレーターにオーリングとかゴムパッキンとかいろいろ入っていますが、この車にはほとんどと言っていいほど使われていません。劣化する箇所が少ないんです」。機構がシンプルだから壊れにくい。また壊れても工夫して直せる。腕のいいメカニックにかかれば、あっという間に直ってしまう車なのだ。

額に入っているのは、昭和30年代のスバ
ル360の写真が表紙になったカレンダー

 昭和30年代から40年代にかけて作られた車に共通する特徴をスバル360も持ち合わせていると加藤さんはうなづく。「旧車の良さは、基本的に作る人の心構えが違うところだと思うんです。この車は、その最たるモノのひとつと言えます」。クラシカルで、丸みを持った可愛らしい車体だが、そこにも憎らしいほど緻密な計算がなされている、と加藤さんは言う。「丸みで強度を出しているんです。曲線を使うことによって、外からの衝撃にも強いから、使う鉄板も薄くてすむ。これが軽量化へとつながります。約400キロ弱の重さは、お相撲さん2人分ぐらいしかない。1人でも押せるぐらいですよ。さらにその軽さが走りにも影響します。私も、かなりの数のスバルを見てきましたが、手がければ手がけるほど良さを感じさせてくれます。本当によくできた車ですよ」

鉄製のサイドブレーキの根元には、チョーク、ヒーター、ガソリンコックのレバーが並ぶ
 実際に乗ると、いまだに結構いい走りをするのだという。「走りに軽快感があるツーサイクルの車は個人的に好きですね。軽快に走る感じがいいんですよ」。加えて、コレクター心をくすぐる要素も持ち合わせていると加藤さんは饒舌(じょうぜつ)だ。「スバル360は、製造が終わるまで、細かいところが年々変わっている。その変化もマニアには、たまらない魅力なんです、年代ごとに集める方もいるほどです」。車をいじるのが好きなマニアにも高い人気を誇る。「ちょっと器用な人だと、エンジンも含めて、自分でもかなりいじれる。整備性がものすごくいいんです」。もちろん、整備できない人でも、魅力にとりつかれる人は決して少なくないのだ。「愛嬌のある見た目が気に入って買って、良さに目覚めていくパターンも多いと思いますよ」

構造をグラフィックアートで描写したポスターは、KATO MOTERSのオリジナル 
 スバル360が最初に発売されたのは1958(昭和33)年。このころ、最低でも100万円以上はした自動車は、所有すること自体、一般庶民には高嶺の花だった。ところが、当時スバルの値段は、24万5000円。大卒初任給は、1万〜2万円程度だったが、手の届かない値段ではなかった。「それでも高価ですよね。だからこそ逆に、長く乗れる、頑丈に作られたんだと思います」

社長の加藤登さん。確かな実績と実感で話すその語り口から、スバル360への愛情が伝わってくる
  乗用車の歴史の中で、スバル360という車は一体何だったのか。その回答は明瞭だと加藤さんは、不敵に笑った。「昭和を象徴する車だと思いますね。国を代表する国民車と言ってもいいんじゃないでしょうか。値段的にも、サラリーマンがなんとか買うことのできる車として人気を得ましたしね」

「バラパンパンパン」とツーサイクルエンジン独特の音を響かせながらスバルは走る(写真の一部を加工しています)
 人気は、いまだ衰えることを知らない。それは加藤さんがいうように、車として魅力があるし、非常に優れているからだ。その証拠に、日本機械学会は、2016年、スバル360に「機械遺産」を授与している。

かとーもーたーす あんど これくしょんず
東京都清瀬市上清戸1-10-10
📞042・493・2877
営業時間:午前11時〜午後7時半
定休日:火
http://www.katomotors360.com/

文・今村博幸 撮影・岡本央

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