自慢は北欧関係の棚 人生を豊かにする良書と邂逅

 そんな小張さんの思いを発信する場所として、谷根千というエリアにも重大な意味が潜んでいる。まず魅力を感じたのは、個人商店が当たり前のようにあるところだ。「郊外には、大きなショッピングモールがあって大きな企業の店や有名チェーン店が乱立しています。でもここでは、八百屋さんや魚屋さんなど『なんとか屋さん』が普通に存在していて、そこで住民が当然のように買い物しています。すごく新鮮でした」

 加えて、谷根千エリアには、あらゆる古いモノが残っているところも、小張さんにとって居心地が良かった。「昔からの風景があり、骨董品を売る店や古着屋、もちろん古本屋などもたくさんあります。つまり、昔から使われているものを愛する土壌があるんです。少なくとも、古いものが好きだったり、小さなものが好きで、大きなものはあまり好まない人たちがいて、彼らにとって、この谷根千という地域は形作られています」。だとすれば、自分がやりたい小さい商いである古書店も、この場所ならば受け入れてもらえると思ったし、似合っているとも感じた。

小張さんの思いがいっぱい詰まった店内には、柔らかく温かな空気が充満している

「さらに、人間同士の昔ながらの付き合いが残っている土地柄であるのも好感が持てました。商売をしていて、他の店との繋がりや、お客さんとのコミュニケーションがごく自然にあります。その関係性の中で、自分が感銘を受けた本を、僕の店に託したいと思ってくださる人が少なからずいてくれる。本を売り買いする行為は、知識や教養、趣味、文化などをまるごと引き受けることですし、次の人に渡していくのが店の役割であり責任だとも思っています」。古本は、その存在自体が人と人を強力に結びつける媒介だ。さらに古本の魅力を小張さんはこう解説する。「個人的に手放したくないと思う本も時にはあります。でも自分で抱え込まないで、好きな人が読んでくれればそれでいい。縁があればまた必ず戻ってくるんです」

 新刊と古本の割合は、3対7ほど。ジャンルでいうと、児童書、猫、北欧、美術関連などをそろえる。一番多いのが絵本だが、そこにも小張さんの思いがある。「もともと児童書を多く出す出版社にいたので、自分にとっての得意分野であることと、子供たちに対して良質な本を届けたいという願いがあります。僕自身が子供の頃に体験した、『本に親しむ楽しさ』をこれからの子供達にも味わってほしいと思っています。そうすることで将来、本があって当たり前の大人に成長してくれると思うんです」

谷根千エリアの中心地から少し離れた比較的静かな通りに店はある

 今、出版業界では、絵本に注目が集まっていると言われる。「教育をおろそかにせず、きちんと掛けるべきお金は掛ける雰囲気が世間にあるのが一因でしょう。同時に、紙の良さも見直されています。子供にとって、紙で作られた絵本を触ることは大切です。手触りやめくる感じ、自分のペースで前のページに戻れるのはやはり紙ならではだし、その良さは無くしたくないですね。僕の中には、そこに対する『愛』も確実にあります」

 最後に小張さんは、その橋渡しを自分ができることが幸せだと、優しい笑顔で言った。

ひるねこぶっくす
東京都台東区谷中2-5-22-101
📞070-3107-6169
営業時間:午前11時〜午後8時
定休日:火曜、第2水曜日
https://www.hirunekobooks.com/
文・今村博幸 撮影・岡本央

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