良書を過去から未来へ橋渡し 下北の知の案内人

 今の20代の人は、昔の情報を新しいものとして見る傾向があるという。例えば、70年代、80年代のファッションを調べるために当時の雑誌などを探しにクラリスを訪れ、見つけた昔のデザインで作品を作ってみようと考える若いファッションデザイナーやスタイリストも少なからずいる。古(いにしえ)の人たちが培ってきた知恵を現代に伝えていく作業をこれからも続けていきたいと高松さんは断言する。

「もしかしたら、売る本の内容は多少変わる可能性はあるでしょう。活字離れは、現実の問題としてありますし、写真集やアート系が幅を利かせてきているのも事実です。でも、そこは仕方ないと思っています。どう変わろうとも、私は、『本という形』のモノを扱っていきたいと思っています」。本気で何かを調べようと思ったときに、いわゆるネットではわからない、本でしか得られない情報があるのを高松さんは知っているし、信じているからだ。

店主の高松さん。「世界の民族衣装」と共に。古書店店主として、「面白くて良書である」と自信を持って薦めてくれた

 古本ならではの情報が見られ、また楽しさや面白さ、媒体として優れていることがよくわかる本を、高松さんと店員の石村光太郎さんが一冊づつ紹介してくれた。

 高松さんが選んだのは、日経ナショナルジオグラフィック社から出版された、世界中の民族衣装を写真入りで紹介する本である。「最近入ってきた本で気に入った一冊です。多様性が失われるこの現代において、大変興味深い本です。自分にとって見慣れないものや異質に思えるものを淘汰(とうた)しようとするのが今の世の中。でも多様性こそが、生きる道だなってことをつくづく感じさせてくれます。しかも、ここまでまとまって調べられるのは、あまりないし、本として見やすい。もっとも優れていると思うのは、民族衣装を着ている国を世界地図で示してあることです」

 ページを見ると、小さな世界地図が描かれており、国の場所が違う色で示されている。「地図のおかげで、なんとなく場所がわかる。詳しくはないけど、ちょうど『いい加減』なんですよ。見やすいし、いい本だなって思います」

「最新住宅プラン300集」と共に。和洋折衷の家の図面集で、「バブルへ向かうちょっと前の時代が垣間見える」と石村さん
 一方、石村さんが選んでくれたのは、家の図面集だ。「1972年に出版された本で、まず表紙の写真に懐かしさを覚えます。衝撃的なのは、当時の住宅の設計図がびっしりと描かれていること。建築関係の本は写真がメインになった今、これは貴重です。ネットで調べたら探せる可能性はありますけど、さすがにここまでの図面は見られない。書籍ならではだと思います」

階段を上がり、このロゴを過ぎたあたりから、古本の香りが漂ってくる。店名の由来は、映画「The Silenceof the Lambs(羊たちの沈黙)」の主人公の名前から
 ところで、高松さんの、本との最初の出合いは、小学校の図書館で見つけた江戸川乱歩の「少年探偵団」だったという。「まずは表紙と挿絵に興味を持ちました。小林少年が自分と同世代なのも共感が持てたんだと思います」。ポプラ社から出ていた硬い表紙のシリーズは、少年少女たちにとって、刺激の強いものだった。そんなことを思い出しながら、頭の中に流れていたのは、あの歌だった。

   「ぼ、ぼ、ぼくらは少年探偵団 勇気りんりんるりの色〜♪」出展「少年探偵団のうた」、作詞・壇上文雄)

くらりすぶっくす
東京都世田谷区北沢3-26-6 2F
📞03・6407・8506
営業時間:正午〜午後8時(日・祝〜午後7時)
定休日:月(祝日の場合は営業)
http://kaitori.clarisbooks.com/

文・今村博幸 撮影・岡本央

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