中古カメラを使いこなすのは、カメラを長く使用していた上級者にとっては楽しいが、初心者には、ハードルが高かった。「故障したらどうしようとかもあるし、フィルムカメラを買った若い方がうまく使えないと、店に持ち込むケースも少なくありませんでした。初めから壊れてるものもかなりあったらしいんです」。もう直らないほど劣化が進んでいたり、よみがえったとしても修理代が高額で、別の個体を買った方がいいと言われることも多かった。「ユーザーさんが肩を落として寂しそうに帰ったって話を聞いたら、僕もポロッと泣けてきちゃったんですよ」。鈴木さんは口をへの字に曲げた。「エントリーユーザーが入ってくるのは、すごくハードルが高い世界なんだと実感しました。それであれば僕たちカメラメーカーが何かできないのかなと思うようになったんです。入門者でも使えるフィルムカメラをもう一度作ってみたらどうだろうっていう発想が、『PENTAX 17』開発のきっかけになりました」
上部には、巻き上げレバーや巻き戻しクランクなどアナログ感にもこだわった
会議に向けて、鈴木さんは、100㌻に及ぶ企画書を書いた。会議の時に「フィルムカメラはどうでしょう」といった途端に、参加者は固まり、部屋の中は「シーン」となったという。「ご自身も予想はしてたんでしょう?」と尋ねると、「実は、かなりいけると思っていました」という意外な答えが返ってきた。フィルムカメラを出そうと思っているというようなテーマで動画を作ったら、世界中から大きな反響があったからだ。コメントも英語、中国語、韓国語などもあり、世界中の方がこのプロジェクトに興味を持ってると感じた鈴木さんは、根気よく説得を続ける覚悟を決めていた。「僕自身が機械式の道具が好きっていうのもありますし、中でもフィルムカメラに目がないんです。古いものにも興味があります。もちろん今の社会の流れも考えてのことでした」
会議がシーンとなったあと、微妙な空気の中で当時の社長がポツンと言った。「皆さん質問はありますか?」。当然のことながら、カメラに詳しい人間が集まっているので、「フィルムの現状はどうなっているのですか」「どうやってデータをパソコンやスマホに飛ばす?」「コストがかかり、価格設定も高くしないと採算が合わないのでは?」「ユーザーはどの程度いるのでしょうか?」など、あーでもないこうでもないと議論は盛り上がったという。