チェーンの居酒屋の最大のウリは、安いことだった。学生時代や社会人になりたての頃、大抵の人が貧乏だったが、そんな若者の強い味方だった。現在、かなり薄れてしまっているが、酒場で友達とコミュニケーションをとりたいと願う若者は少なくなかった。しかし先立つものがなければできない。それを可能にしてくれたのがこれらの存在だったのである。
もろもろの事情で店にいけず、何年かご無沙汰し、しばらくぶりに行ってみるとちゃんと昔ののれんがかかっている。そんな店を、我々は好む。生まれては消えていく、泡沫(うたかた)のごとき最近の店の対極にある居酒屋を、我々は愛してやまない。
店を張っていれば、いろいろなことが起こることは想像に難くない。言わずものがなではあるが、今年のコロナ禍のように、なんかの加減で、危機に瀕することもあるだろう。そんな難局を力強く乗り越えて今も残っている居酒屋に、我々は敬意を払わざるを得ない。
昔も今も心の底から落ち着いて酒をたしなめる到達点の一つが居酒屋だ。それが、昭和の面影を残していればさらに喜ばしい。
文・今村博幸 撮影・岡本央、SHIN