2019(令和元)年に老朽化により解体の危機に直面した。翌年に取り壊される予定だったが、同邸を愛していた漫画家・山下和美さんが発起人となり、保存運動を展開した。それをネットで知った笹生那実さんが、夫である漫画家・新田たつおさんとともに資金協力を申し出て、解体を免れることになった。今年2月に行われたテオドラ邸開館記者会見では、ちばてつやさん、永井豪さんをはじめとする漫画界のビッグネームが応援に駆けつけた。何とも心強い限りだ。
歴史が刻まれた床板は傷みが激しく、修理をするには果てしなく手間がかかったというが、そこまでしても当時の床は極力残した
尾崎行雄とテオドラの結婚は、不思議な偶然に起因する。同姓だったせいで、海外から来た郵便が間違えて配達され、それがきっかけで二人は出会った。そこから恋が芽生えたと言われている。テオドラが、この洋館に実際に住んだのか、住んだとしてもどのくらいの期間だったのかもわかっていない。残念なことに、この洋館に関する資料はほとんど残っていない。加えて、当時女性は財産を持つことはできなかった。「だから絶対に記録に残りません。所有者にはなれなかったはずです」。笹生さんは説明する。あらゆる情報は、現物を見てこま切れの資料から想像するしかないのだ。創造と想像を得意とする漫画家たちが力を合わせることによって、洋館の中で起こった物語は大きく膨らんでいく。夢や想像の力を借りて建物を見学して歩くのは楽しい時間でもあるのだ。
同じ邸内にあるドアでも鍵穴がノブの上にあったり、下だったりと混在している。あれこれと理由を想像してみるのも面白い
日本の民主主義化をけん引し、「議会政治の父」とまで呼ばれた行雄と尾崎三良男爵の長女の結婚は、政治的にも大きな出来事だったことは想像に難くない。この洋館が完成したときには盛大な新築祝いのパーティーが開かれたことが、「尾崎三良日記」に珍しく記録が残っている。当日は伊藤博文らを招いて、ドンちゃん騒ぎをしたとも書かれている。その新築祝いから約20年後の結婚だった。「おそらくですが、結婚直後には、一緒に住んでいたかもしれません」