口裂け女、ツチノコ、人面犬…都市伝説を考える

コラム其ノ拾陸(特別編)

retroism〜article247〜

 「私、キレイ?」

 日本で最も有名な都市伝説のひとつ「口裂(さ)け女」が気味悪くつぶやく定番のセリフだ。通りすがりのマスクをした女が子供に尋ねる。「はい」と返事をすると振り返り、「これでも?」と言ってマスクをとると口が耳まで裂けた顔が現れる。子供たちは、「ギャー」と驚いて逃げていく。ひょうきんな女の子たちは、髪をボサボサにして、この言葉でクラス中を沸かせた。

都市伝説は、完全なフィクションだ。それも、文字になってない「お話(小話)」である。口頭で伝えられ、それを聞くことで成り立っている。語り部によって、聞き手によって、物語の表情は微妙に変わっていくところに魅力があった。いかにも今の時代とは違う、人同士の関係の中で紡がれていた小話だった。「口裂け女」にしても、元々は怪談であったはずなのに、前述したとおり、子供たちによって笑いに変わることもありうるのだ。

 ありもしないことを、さもありそうな話へと作り上げていくのは小説とまったく同じだが、都市伝説は、あくまで「伝承」であり、伝承は人の言葉で語られ広がっていくところに最大の特徴と魅力があるのだ。