魑魅魍魎が跋扈していたわが青春のゴールデン街

新宿ゴールデン街(東京・新宿)

retoroism~article244~

 かつて魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)していた世界が東京・新宿に存在した。細い路地が縦横に走る路地を、作家や演劇人など文化人が集まり、自由自在に歩き回っていた「新宿ゴールデン街」である。

 いまから30〜40年前、誰でも気軽に入れる一画ではない匂いをプンプンとさせていた。ドアに会員制と書かれた店も多く、取材などほぼ不可能だった。閉じた空間に集まっていたのは、個性的な店ばかりである。

 「呑屋(のみや)しの」という名の店があった(ママのしのさん=木島三代子さん=は2022年9月に逝去。現在は若いスタッフが日替わりで切り盛りしている)。カウンターに、ママ手作りのうまい料理が並び、この街では、比較的入りやすい店だった。しのさんは、豪放磊落(ごうほうらいらく)な人物で、客に向かっても臆せず厳しい言葉をはき、酒を楽しむというよりむしろ彼女と会うことを目的に来ている客も多かった。ただ、そこはゴールデン街。冗談もかなりキツく、気の弱い人間だったら、しっぽを巻いて逃げていく。でも、いつ行っても満席で、刺激的な会話を求めて人が集まっていた。面倒見のいい人で人気も絶大であった。

終戦後に闇市として発展したこの地域は、通称「青線」(非合法に売春を行っていた飲食店)だった