魑魅魍魎が跋扈していたわが青春のゴールデン街

 ゴールデン街を訪れる文化人たちは、自分の芸を磨くためでもなく、変えるためでもない。楽しいからに他ならなかった。

 他に有名人も多数グラスを傾けていたのは周知の事実だ。その数はいちいち名前を挙げられないほど多く、ジャンルだけ紹介しておこう。作家、漫画家。写真家、映画人、演劇、ミュージシャン、芸術家(岡本太郎も常連だった)。他にも評論家、全共闘、詩人などなど。彼らは、酒を飲みながら、議論を繰り返していた。もちろん与太話もあったろうが、侃侃諤諤(かんかんがくがく)の「議論」は、ゴールデン街の名物でもあった。けんかも日常茶飯事で、血を流しながら、路地を歩いている人もちょくちょく見かけるほどだった。

 現在のゴールデン街は、外国人観光客がひしめき、当時を知らない若者も気軽に入れる場所になってしまった。その様は街が発展しているのか衰退しているのか、もっと言うと、どう呼べばいいのかすら分からなくなってしまった。嘆いているわけではない。「昔は良かった」と言うつもりもない。

 すっかり代替わりして雰囲気がガラリと変わった「ゴールデン街」を呆然と見つめることしかできないというのは、少し寂しい。

文・今村博幸