魑魅魍魎が跋扈していたわが青春のゴールデン街

 競馬では負けたことのないと豪語する主人が営む「ロンリー」もあった。「賭ける馬を決めるときには、『馬の尻』を見ろというのが持論だった。カウンターの下には、馬のケツだけをフレーミングした写真がたくさんストックされ、言ってることはわかるが、首のちょん切れた写真を見せられると、なんだか妙な気持ちになったものだ。

 その道で知られた人が経営する店もポツポツ存在していた。そして有名人もたくさん通った。例えば、冒険小説やハードボイルドを中心に圧倒的な読書量を誇った内藤陳(コメディアン、俳優、書評家)さんの店、「深夜+1(プラスワン)」。「月刊プレイボーイに「読まずに死ねるか!」を連載し話題になった。ノワール(犯罪や暗黒街をテーマとした小説)の名手である馳星周さんがアルバイトをしていたが、彼の言によれば、「ゴールデン街を知っていなければ、作家にはなれていなかった」とまで言わしめた、彼にとっても重要な街だった。「酒乱、暴力、流血が日常」と言ってはばからないほど、エキサイティングな街でもあったのである。

 また、外波山文明さんの店「クラクラ」もここにある。劇団を主催する外波山さんが「劇団員の集まる場所」として開いた。常連だったのは、あのたこ八郎さん。外波山さんは笑いながら、「開店以来ほとんど毎日寄って酒飲んでたけど、金は一度も払わなかたなぁ」

わずか3〜5坪の店がひしめき合うゴールデン街。280ほどの店舗が軒を連ねる