2024年06月一覧

魑魅魍魎が跋扈していたわが青春のゴールデン街

 かつて魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)していた世界が東京・新宿に存在した。細い路地が縦横に走る路地を、作家や演劇人など文化人が集まり、自由自在に歩き回っていた「新宿ゴールデン街」である。  わずか三十数年前、誰でも入れる一画ではない匂いをプンプンとさせていた。ドアに会員制と書かれた店も多く、取材などほぼ不可能だった。閉じた空間に集まっていたのは、個性的な店ばかりである。

書き手の思いがしためられた肉筆の手紙に魂感じ

 ほんの30年前まで、人に何かを文章で伝えるツールは、手紙しかなかった。はがきや便箋に自らの手で文字を一文字一文字したためていた。  手紙の最大の利点は、書く人の思いが深度を増して伝えられるところにある。ビジネスなら大切な契約が取れるよう、疎遠になった故郷の両親なら近況を文字に心を込めて気遣った。博物館などで、特攻隊の最後の手紙が展示されていることがあるが、そこから見て取れるのは、肉筆にしか表れない、これから死にいく人間の叫びである。