スラムダンクを歩く

あとがき

 「日本一有名な踏切」。もしかしたら「世界一」と言っても差し支えないかもしれない。

 江ノ電・鎌倉高校前駅から東に100㍍ほどの場所にある「鎌倉高校前1号踏切」を訪ねた。SLAM DUNKアニメ版初期のオープニングに登場する同踏切周辺は、多くのファンでにぎわっていた。累計発行部数1億7000部を誇る大人気マンガとはいえ、連載開始(1990年10月)からおよそ32年半(終了から27年)たっている。にもかかわらず、いまだに聖地巡礼で訪れる人が絶えない一番人気のスポットだ。電車が通るたびにカメラやスマホのシャッター音が周囲に響きわたっていた。耳を澄ますと聞こえてくるのは、英語、韓国語、中国語(台湾華語)など外国語がほとんどだ。SLAM DUNK人気がグローバルだというのもうなずける。

 同踏切から5分ほど歩くと、湘北のライバル校・陵南のモデルとなった鎌倉高校がある。最寄駅の「鎌倉高校前」は作中では「陵南高校前」駅となっている。海沿いを東に4㌔ほどの鎌倉海浜公園坂ノ下地区へ。マンガ新装再編版第2弾の表紙で主人公・桜木花道のライバル・流川楓がロードバイクに乗って防波堤の上を走っている場面が描かれている。実際にこの地を訪れると、防波堤が思いのほか高いことに驚かされる。標準的な大人でいえば、胸と腰の中間あたりの位置だ。しかも、幅約50㌢と狭い。まねをする輩(やから)がいるとは思えないが、実際にやったら大怪我(けが)必至だろう。

 今度は西へ進む。漫画のラストシーンで、赤木晴子からの手紙を読む桜木と、ランニングをしている流川が邂逅(かいこう)した鵠沼海岸にたどり着く。インターハイが終わり、互いの目標を胸に、遠く江ノ島を見つめる二人の後ろ姿が印象的だった。最初は相手のことを快く思っていなかった二人。試合中パスを通すことはほとんどなかったが、インターハイ予選などプレイを重ねるうちに徐々に相手を認め合うようになる。クライマックスのインターハイ・山王工業戦になると互いにパスを出すようになっていく。死闘とも言える山王戦に勝利し、その関係が一気に縮まったと思わせる象徴的なカットだ。

 辻堂にある湘南工科大附属高校は、王者・海南大付属高の元ネタとなった学校だ。さらに北に行くと、秋葉台文化体育館がある。ここはインターハイ予選の決勝リーグで湘北が海南大付属と対戦した場所だ。桜木の才能が開花した地でもある。最も印象に残っているのは、桜木が赤木剛憲と間違えて海南の高砂一馬にパスをしてしまい、坊主頭になるきっかけとなったシーンだ。平塚総合体育館は、インターハイに出場できる最後の一校を懸けた陵南との大一番の舞台となった会場だ。館内には作者・井上雄彦氏の色紙なども展示されている。いずみ野に足を延ばすと、湘北と死闘を繰り広げた翔陽高校(モデルは松陽高校)がある。

 余談だが、映画「THE FIRST SLAM DUNK」が昨年12月に公開され、ロングランを続けている。アニメ版では描かれなかった山王戦を大スクリーンで見られただけでも感動ひとしおだった。宮城リョータ視点で進むストーリーには賛否両論が巻き起こった。だが、桜木ではなく宮城を主人公に持ってきたところに作者からの強いメッセージを感じた。本編では、宮城というキャラクターは主人公の桜木やライバル・流川、キャプテン・赤木剛憲、天才・三井寿などの陰に隠れた存在という印象があり、過去のエピソードなど十分に描ききれなかったのではないか。また、「本編をなぞるだけの作品にはしたくなかった」という作者の並々ならぬ思いが伝わった。

 ストーリーの面白さや登場人物の魅力もさることながら、多くの読者(視聴者)の心をつかんだのは数々の名セリフだったのではないだろうか。最も印象に残っているのは、中学バスケの県大会決勝で、残り時間12秒、1点差で負けている三井に来賓で観戦していた安西(光義)先生が掛けた「あきらめたら そこで試合終了だよ」の一言だ。後に山王戦で桜木に対しても「あきらめたら そこで試合終了ですよ」と説いている。他にも挙げればキリがないが、「安西先生……バスケがしたいです」(三井)、「リバウンドを制する者は試合を制す」(赤木)、「天才とは99%の才能と1%の努力」(桜木)などなど。聖地を歩きながらこんな名言の数々が脳裏をグルグルと駆け巡った。

                           文と撮影・SHIN