昭和27年頃の漁師町を再現 船宿や三軒長屋も

 橋を渡ると、右手に見えるのが、浦安・猫実の境川沿いにあったたばこ屋を移築したものだ。多くの窓があり開放的で、大正末期から昭和初期頃の標準的な商家である。店番をしていたのがおばあちゃんと聞くと、懐かしさが込み上げてうれしくなる。家族は市場で鰻(うなぎ)屋を経営していた。奥の土間の大きな冷蔵庫には、割いたウナギが入っていたという。2階は子供部屋などもあり、家族が生活する場所になっていた。お勝手には、当時は新型のかまどが備えてある。炊事に使うザルなど当時の道具が雑然と置かれていた。たばこ屋。雑貨も扱い庶民には欠かせない店だった。赤いポストも実際に使われていたものだ

 橋の左手に見えるのは、江戸川沿いにあった船宿「岩田屋」をモデルに再現した建物だ。浅瀬だった浦安は、東京近郊にある海の行楽地としてもにぎわっていた。客は、海水浴や潮干狩り、釣りなどを楽しんだ。そのための拠点として船宿は繁盛していたのである。さらにその隣には、漁師の家がある。堀江の境川沿いにあった漁師の家を移築したものだ。建てられたのは明治後期。漁家(ぎょか)の典型的な間取りになっている。作業用の土間と三つの部屋が並ぶ一般的な漁師の家だ。川に面した方向に土間が作られたのは、船に必要な漁具をしまったり、船の修理を行ったりするのに都合がいいからだった。隣にはノリの製造工場があり、冬場には、ノリ漉(す)きが体験できる。潮風をたっぷりと浴びたノリは、さぞうまかったに違いない。

井戸水は、どこの街角にもあった貴重な水源だった

 山本周五郎の小説「青べか物語」は、浦安をモデルに描いた小説だ。物語の中に登場する天ぷら屋「天鉄」も再現されている。漁師町に存在していた個性豊かで人情味あふれる人たちの様子が、生き生きと描かれたこの作品に思いを馳(は)せながら、古い街並みをそぞろ歩くのも楽しい。その天ぷら屋の隣は、江戸時代に建てられた三軒長屋だ。一般庶民の素朴だが海産物豊富な豊かな暮らしを見るようで、心弾む。

山本周五郎作「青べか物語」に登場する天ぷら屋。周五郎と浦安についての資料も展示されている