昭和27年頃の漁師町を再現 船宿や三軒長屋も

 人々の生活を支え続けた実物の道具には、漁師の誇りが染み込んでいる。その向こう側には人間の営みの尊さや暮らしが透けて見えるのだ。特に貝漁に関しては、東京湾でも浦安近辺がもっとも盛んだった。「江戸川からの栄養豊富な水が流れ込んでいたので、それが貝やノリに良かったようです」。袖山さんがほほえんだ。たばこ屋の裏にある小さな庭には物干し竿(ざお)に浴衣が干してあった。夏の必需品だ

 他にも、平安後期から鎌倉時代にかけて、この周辺に暮らした人々がいたことを立証する貝殻の地層の剥(は)ぎ取り標本など、漁師町として栄えたことがわかる資料なども展示されている。「ボラやスズキ、アオギス、イワシなどがたくさん取れていたようです」

 野外展示では、漁師町としての歴史を実物の建物を使って紹介している。木製の橋から見える風景は、まるで別世界だ。下を流れる川には、貝を取ったりノリの養殖に1人乗りのベカ舟や白い帆を張って使用する打瀬船(うたせぶね)が浮かぶ。全てが人力で作られたこれらの小さな舟が、充実した人生を送った老人のように、満足げにそして静かに体を休めている。

屋根の瓦の隙間にはかれんなタンポポが咲いていた

 砂利と貝殻が敷かれた道を歩くと「ザクッ、ザックッ」と音がする。かつて東京でもこのような路地裏は至る所に存在していたのを思い出す。まだ道が舗装されてない頃の記憶が、脳裏によみがえってくるのだ。「1952(昭和27)年ごろの浦安の街並みを再現したものです。建物は8軒あり、4軒は市内から移築したもの、あとの4軒は当時の様子を再現したものです」。浦安が漁師町として最盛期とも言える時代を迎えた頃だ。その後、昭和50年代〜60年代にかけて、街は現代的に変ぼうを遂げる。「その前の最後の様子を体感することができると思います」

かつてはどこの家にも必ずあった神棚。漁師町も例外ではなかった