普段利用する通勤通学列車も、昭和とはすっかり様子が変わった。当時、自動改札機はなく、改札ボックスにいる駅員が切符を切っていた。そのリズミカルな音には、駅員によってそれぞれ個性があり、さまざまなリズムで素早く切れ込みを入れていった。駅は我々にとって日常であり、改札付近では必ず「パンチ」の音が響いていた。以前にレトロイズムの取材で訪れた地下鉄博物館で案内役を務めてくれた足立勝男副館長は、かつて駅員だった経験から、古い改札パンチを鳴らしてくれた。昔覚えた手の動きが体に染み付いていたに違いない。かつて聞いたことある「チャッチャチャチャッ」という音は当時に引き戻された気持ちにさせてくれた。
ホームにはタワー型の灰皿が置いてあり、乗客たちは、電車が来るまでの間、一服を楽しんだ。常に人だかりができていて、当然ながら誰も文句を言う人などいなかった。いつの頃からか周りに黄色い線が引かれ、やがて全部撤廃されて全面禁煙となってしまった。
東海道線など、長距離を走る列車や、地方に行けば、ほぼ全車両がボックスシートだった。窓の下には、半回転するふたのついた灰皿や栓抜きが備え付けてあった。はっきりした数字は不明だが、今よりも愛煙家の割合は高く、大勢の人が灰皿を利用していた。煙たそうな顔をする大人も子供も見かけなかった気がする。それほど、当たり前の光景だったということになるだろう。
主に通勤電車に用いられていたロングシート。昭和の時代には床は木製が多かった