レトロ散歩其ノ拾弐(蒲田駅周辺)

あとがき

 心地よい喧騒(けんそう)が、蒲田にあふれている。かつてどの街にもあったそれに非常に近い。蒲田は労働者の街でもあった。その頃から現在に至るまで、人々が暮らし、さまざまな営みが行われてきた息遣いが実感できるのだ。

 昼は家族連れが目立ち、子供たちのはしゃぐ声があちこちで響きわたる。象徴と呼べるのが、「東急プラザ蒲田」の屋上にある「かまたえん」。小さな遊園地だ。昭和の頃には多くのデパートの最上階にはなんでも食べられるレストランがあり、屋上には遊園地があった。観覧車がのんびりと回っている場所も少なくなかった。かまたえんにはそれが残っているのだ。1968(昭和43)年の開業以来(当時はプラザランド)、蒲田の移り変わりを見つめてきた。現在ある「幸せの観覧車」は3代目で、東京にある屋上観覧車はここだけになった。

 夜は、言わずと知れた飲み食いの街へと変ぼうする。最近は新興の店も多く見かけるが、昭和から残っている古いタイプの居酒屋もまだまだ健在だ。

 西口のバーボンロードは新旧の飲み屋が連なる飲兵衛のパラダイスと呼んで差し支えない場所である。立ち飲み屋が多いのも一つの特徴だろう。うれしいのは、なんと言っても安いこと。気軽に寄って数杯飲んで、串を3~4本。そしてさっと帰るのが粋な飲み方だ。続けて別のタイプの店へとはしごするのも楽しい。

 歴史ある昔のままのクリームソーダを供する喫茶店「チェリー」、懐かしい味の洋食屋「ぐりる スズコウ」もうまい。

 蒲田の街に昭和を感じる。それは街の端々に、年月を積み重ねた風景が残っているからに他ならないだろう。時には、何げない小さな風景から昭和に思いをはせるのも悪くない。

文・今村博幸 撮影・JUN

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