横浜を見守り九十余年 レトロモダンな近代建築

 インペリアルビルが残っている意味は大きい。「戦前にこういうビルがあったことを、後世に伝えたいと思っています」。昭和の初めに風呂、トイレ、シャワーなどがついた鉄筋のアパートが存在していたことすら、知らない人が多いだろう。「だから私は、インペリアルビルは一種の『記念碑』的な意味合いもあると自負しています」。ここがあることで、あらゆる人に喜んでほしいと上田さんは思っていると目を細めた。「エントランスに一歩足を踏み入れると、昭和初期のこんな建物が残ってるんだって感動してくれるんですよ」

部屋の電話からロビーの交換機を通して電話を繋いでもらっていた

 一方で、入居者もその辺りを理解して使っているのがありがたいとも上田さんはほほえむ。「部屋の中を奇麗に使ってくれる。建物に合うようにセンス良く手を入れて使ってもらっているので、私としてはそれがとてもうれしいんです。価値を共有してくれているというのかな。建物自体の『意味』を理解して、自分たちもしっかり使わなきゃと思ってくれているのが良くわかるんです」

階段の踊り場には、いろいろな種類の灰皿が置いてある。マッチをセットできる仕組みも便利だし楽しい

 それぞれの部屋に入ると感じるのは、どの部屋もおしゃれだ。「相手が借りるときに、『でもエレベータないよ』って一応言うんですけど、それは関係ない。この雰囲気の中で仕事をしたいんだと言ってくれます」。少し前、入居者は港湾関係者が多かった。今は、フランス人形作家だったり、靴の修理屋もある。建築士、仕立て屋さん、デザイナー、クリエーター、モノづくりの人が多く入っている。

人形作家・草刈尚代氏のアトリエも入っている。入り口からして雰囲気がステキだ

 もう一つ驚くのは、内装の修理はほとんどが上田さん自身がやっていることだ。「蘇っていく感じが私自身うれしいんです。私が来た時には荒れ放題。それを少しずつ元に戻している最中です。センスの良い人たちが入ってくれてセンス良く使ってくれるから、こっちもやる気になっていくんです」。これは死ぬまで続けていくつもりだと力強く上田さんはうなずいた。「古くなってしまうものを新しくする。そういう仕事自体もやりがいがある。復元していくことは楽しい作業です。私自身が手先が器用なことも良かったのかもしれません。祖父も生きていたら、驚いているんじゃないですかね」

ビルのエントランス。右に見える場所は、かつては土産屋さんだったが、今はギャラリーとして使われている。一般にも貸し出されている

 いかにも横浜らしい、昔ながらの外国人専用アパートメントホテルは、歴史を重ねた現在、造形の美しさと深い情趣に満ちている。

いんぺりあるびる
横浜市中区山下町25
📞:045-662-1319

文・今村博幸 撮影・JUN

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