チャルメラ 石焼き芋 切符鋏 耳で感じる昭和風情

 気温が少し下がり始める秋になると、「チンチロチンチロ チンチロリン」とマツムシが鳴き、スズムシは「リンリンリンリン リーンリン」と歌った。夜になってクーラーもいらなくなった頃「もう夏は終わりだよ」と言わんばかりに鳴き出した。ちょっと物寂しい気持ちにもなるが、それがまた良い。毎日汗を拭き拭き外を歩いた夏が潮が引くように終わりを告げているかのようだ。

 冬には「ある声」を待つ女性(もちろん男性もいた)が増えた。焼き芋(いも)屋の拡声器を使った肉声だ。「焼き芋ぉ〜、石焼きぃ芋〜。甘くておいしいお芋だよ〜」。そういえば、「早く来ないとぉ〜、行っちゃうよぉ〜」などと煽(あお)る店主もいた。東京・世田谷あたりでは、よくこれらのフレーズを聞いたが、地方によっては多少違いがあるのかもしれない。リヤカーを改造し、燃料は木だった。あの声を聞くと居ても立っても居られない女性(男性)が、職場や台所を飛び出して、焼き芋屋を追いかける。代表的な有名人はサザエさんだ。夜には、拍子木を打ちながら火の元に注意を促す消防団の人たちが寒い中、町内を回った。「火の用心! カチカチ(拍子木の音)。マッチ一本火事の元!」。地域のコミュニティーが希薄な今と違って、町内のみんなで協力して火事や事故を減らそうという精神構造が見てとれる。現代に生きる我々ももう一度思い出さなくてはならない発想だ。温かくて甘い焼き芋は冬のおやつにはぴったり。新聞紙に包んで持たせてくれた