自作の機器が奏でる大音量のコルトレーンに忘我

 喫茶 映画館を白山下で始めた頃、吉田さんは助監督という立場で映画制作に関わっていた「助監督はストレスがたまるんです。自分の撮りたいものとは違う人の作品の手助けをするわけですから」。自分が目指すものを求めて、映画の自主上映をするための場所を開いた。それが店名の由来にもなっている。5年ほど続けて今の場所(白山)に移ってきた。白山に移ってきてからは、ジャズ喫茶として営業を続けている。


(上)トイレの照明は豆電球だが、(下)ドアを閉め、鍵をかけると明るい別の電球が点灯する。その仕組みにカメラマンが感心して撮った2枚

 驚くのは、音響機材の多くが自作であるという点だ。全ては理想の音を求めた結果に他ならない。使用するターンテーブルは、60年代に発売された電音(現デノン)製の「アイドラー・ドライブ式」を改造したものと80年代に製造された「マイクロ製糸ドライブの吸着式」の2台を使い分ける。どちらも古い方式だが、安定した回転数や力強い音再生が得られるメリットがある。それらを直しながら使い続けている吉田さんは「僕は凝り性ですし、そういうことを勉強するのが好きなんですよ」と目を輝かせた。ターンテーブルにおいて、セラミック製の軸受けは非常に珍しいものなので実際に見せていただいた。もちろん特注品だ。

 スピーカーもエンクロージャー(筐体=きょうたい)以外は自ら組みあげた。スコーカー(中音域)のホーンの部分に至っては型紙から自作した。ウーハー(低音域)は、38㌢2発とその下にサブウーハーとして70㌹以下を担う46㌢が1発。合計3発のウーハーが放つ音は、厚みがありながらまるで柔らかな鳥の羽根で撫(な)でられているかのような音を店全体に行きわたらせる。スピーカーとアンプ、店のスペースによって作り出される音の広がりに引き込まれる。特にウッドベースの音は秀逸で、自分の目前に存在すると錯覚するようなリアリティーには驚きを禁じ得ない。

テーブルの天板の一部が折り畳まれ、広くも使える工夫も施されている