思い出は自転車とともに「世界に一台」を自分で

 そんなふうに不思議な密度で店は成り立っている。「うちに来る若い子たちは、古いものが好きだけどSNSに上げようともしない。消費するだけの人たちが来るのが嫌だという若い人は多いんです」。髙田さんの思いも伝わっているのだ。「僕は、自分の大好きな風景を残したいからこの仕事をしているとも言えます」。風景として、人を含めてモノも含めて、見えるもの、人が楽しそうにしていたりするのを見るのが好きなのだ。昭和にはそれがあった。

ハンチングとひげがトレードマーク。心の結びつきを大切にする人柄が、話の内容からにじみ出る。

 今後にむけて髙田さんにはもくろみがある。「自転車って乗れなくなる瞬間が来るんです。体のこともありますし、部品がどうしても手に入らない。どうやっても直せない。そうなるともう破棄しか方法はありません。そこで、シートチューブとかヘッドの一部を切り取って、スツールの一部分にして再生できないかと考えています。メモリーとして残してもらうために」。一部だけ残すことにも十分に意味があると髙田さんは言う。「大切な思い出を残すという意味で、自転車という形を保っていなくても、そこの部分だけ残れば、お父さんとの思い出が消えないんであれば、そのお手伝いをしたいと思っています」

店内には、ちょっと懐かしい雑貨やレコードなども並べられており、一部売られているものも

 自転車に乗ると景色が変わる。それは、歩いている時とは違う。ましてや車、あるいは電車の窓から見える景色とは全く違うのだ。そんな自転車を残して、思い出として心に刻むのは、限りなく深淵(しんえん)な意味をもった行いである。

れとろさいくる
千葉県松戸市河原塚408-1 せんぱく公舎a号室
営業日:土、日
営業時間:正午〜午後7時ごろ
文・今村博幸 撮影・JUN

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする