贅の極みを尽くした「欧州の古城」で昭和に浸る

 一番奥にある大きなステンドグラスのモチーフは、世界遺産であるロシアのエルミタージュ美術館にある大使の階段だ。感心するのは、全てが古城のオリジナルである点である。省三さんの美意識と想像力のたまものだ。京子さんがちょっと愚痴をこぼす。「でもね、掃除が大変なんですよ。電球も一つひとつ外して年に1度磨き上げます。面倒だなと思うこともありますが、父が心血を注いで作り上げたものですから、粗末にはできません」

公衆電話も黒電話も現役。ピカピカに磨き上
 げられているところに、店に対する愛を感じる

 喫茶店の顔であるコーヒーも質は高い。今は、1杯ずつ淹(い)れるのが良しとされる風潮があり、それはそれで流儀ではあるが、かつては、客の入りを見込んで、ある程度の人数分を作るのが普通だった。実際に、多めに作ったコーヒーの方が実はうまいと言う主義の喫茶店経営者も少なからずいて、古城も昔ながらのまとめて淹れる方法をとっている。コーヒーのお供に薦めたいのがサンドイッチである。特に塩味の卵焼きを挟んだものは個性的だ。昔懐かしい喫茶店の定番と言えるクリームソーダも、濃いめのメロンソーダにバニラアイスクリームが絶妙に絡み合う。「こんなにうまいものだったのか」と目から鱗(うろこ)がポロポロと落ちるほどだ。

濃厚なクリームソーダ。昔ながら
と言う表現を思い出させる味だ 

 同じような経験をした人たちが、かつてたくさんいた。上野駅は、北へ向かう人、東京を訪れる人の玄関口だったし、今でもそれは同じである。現在もターミナル駅として多くの人でにぎわっているが、1950〜60年代には、それぞれの人生の出発点でもあった。特に集団就職で地方から集まった人たちにとって、当時の流行歌「あゝ上野駅」の歌詞にあるように、「心の駅」だった。迎えにきた企業の人間が「金の卵」を連れてこの古城を利用したという。

ホットケーキと上品に添えられたクリーム、
とろけたチョコレートとの相性も抜群だ  

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