レトロ建築探訪其ノ参

あとがき

 「コンクリート打ち放し」という言葉には、どこか懐古的な響きがある。20世紀のモダニズム建築において、鉄とガラス、コンクリートは重要な要素だったからだ。

 歴史をひもといていくと、丹下健三、モダニズム建築の旗頭として名をはせた前川國男、吉川順三らのビッグネームが次々と飛び出してくる。それだけこの建築様式が注目されたことの証しだろう。

 1924(大正13)年。フランク・ロイド・ライトの助手として日本を訪れた建築家アントニン・レーモンドが、東京・霊南坂の自宅に取り入れたのが、日本で最初に建てられたものと言われている。

 その魅力の一つは、コンクリートそのものが持つ(装飾を最小限まで省略した)ミニマルな美しさ、透けて見えるのは、太平洋戦争で焼き尽くされた木造建築の真逆をいくような、力強さにあるのかもしれない。

 今でこそあらゆる建材が使われているが、戦争前後の日本の近代化の象徴の一つが、コンクリート打ちっぱなしという様式に凝縮されている。「我々はこれから強くなっていくんだ」という覚悟の表れのような気がしてならない。

 それらを探して歩くことで、当時の国の方向性を暗示していたとさえ感じられる。建築の奥深さも実感できるのだ。

 文・今村博幸 撮影・JUN