本物の京急車両に触れ 通勤通学、旅の思い出紡ぐ

 車内に入ると聞こえてくる走行音は、小林さんたちの上司の提案で流し始めたものだし、電車が止まっているホームには、昔の漫画に出てくるロケットのような形をした背の高い灰皿まで置いてある(使用不可)。「これは、金沢文庫駅のホームの下にしまっておいたものを、駅員が見つけてきてくれたものです。他にも社内の人間が、『こういうのあったよ』とか、『あういうのも展示したほうがいいんじゃない』っていうような意見を上げてくれます」

 館内には、デハ230形236号に動力を送る電線(架線)が引かれているが、電力課の社員が実物通りに引っ張り、実際に使われている部品で両端を止めて張ったものである。「1年ぐらい経つとゆるんでしまうので、その度に自分たちで引っ張り直します」

木製の肘掛けにフカフカのベンチシート。昔通りの風景に心弾む

 京急ミュージアムのすごみは、列車含めた展示物を資料的に並べているだけではないところだ。「駅のホームも、この列車が引退する1978(昭和53)年の一般的な駅のホームを再現したものです。逸見(へみ)駅とか安針塚(あんじんづか)駅あたりがモデルです」。設置した当初、ホームは作ったが何かが足りない。鉄道会社社員(職員)、特に駅に関わる者なら必ず違和感をもつ「あるもの」がなかった。「ダメ線」(下記写真参照)である。おそらく、鉄道ファン以外の一般の人にとって、「ダメ線」という言葉は初耳に違いない。簡単にいうと、車両が正しい位置に止まっているかどうかを確認するホームの端に書かれているオレンジ色の線とバツ印だ。列車が停車した時、車掌が安全確認する際、車両が線を過ぎていたらドアは開けられない。運転士に連絡して、バックを促す。稀(まれ)にだが、ホームに停車した瞬間に「列車を動かします」というような放送が流れる時がある。それは、ダメ線を越えている時だという。

これが「ダメ線」。列車を安全にスムーズに運行するためには、なくてはならない印である

 「駅とデハ230形236号を限りなく本物として見せるためには、ダメ線がないとダメ。『ドアは開けられないし電車は動かないだろう』と(佐藤武彦)館長が言い出し、最終的につけることにしました」。乗客には小さなことでも、プロとしては許せなかったということだ。「社員やOBが、この歴史的価値の高い車両を、多くの皆さんに誇りたい、愛情を持って後世に残したいという気持ちがあるんです」。小林さんはうれしそうに目を細めた。

ジオラマは見応えがあるのは、京急OBの方々が持
ち寄ったミニカーなどが使われているからだろう 

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