東京市電が走る新宿の街並み 写真と資料で顧みる

 第2章の「路面電車と文学」も興味深い。新宿に居住していた夏目漱石、林芙美子、高田敏子などがつづった当時の路面電車の様子を写真とともに紹介している。例えば、林芙美子の自伝的小説でありベストセラーとなった「放浪記」の中で、彼女は次のように描いた。「……五月の埃(ほこり)をあびて、新宿の陸橋を渡って、市電に乗ると、街の風景が、まことに天下タイヘイにござ候と旗を立てているように見えた……」。人々の活気が伝わる、凛(りん)とした言い回しだ。

作家の林芙美子も路面電車に乗った。「放
浪記」の中では、新宿には「買いたいもの
が何でもぶらさがっている」と記している

 さらに第3章では、「路面電車廃線の旅」と銘打ち、新宿区内を走っていた路面電車の写真が資料とともに並ぶ。新宿の景色と一緒に見せられると、一枚の写真の向こう側にある物語が透けて見えてくる。風景と路面電車を通して、当時の人々の暮らしを勝手に想像するのも楽しい。

 2月27日には、関連講座「東京の路面電車の歴史」が開催される。首都・東京の路面電車が果たした役割などをテーマに岡田直・横浜都市発展記念館主任調査研究員が解説する。定員60人(多数の場合は抽選)、料金500円。申し込みはWebまたは往復はがきで(2月10日必着)。

電車の系統ごとに分けて写真を展示。左端の図は、停留所の名前が書かれ、新宿区内は黄色く塗られている

 同博物館の芦崎泰彦学芸員は、「展示した写真には、街と街を歩く人の姿が路面電車とともに映り込んでいます。新宿の移り変わりとともに、当時の人たちの暮らしぶりなども同時に見ていただけたら」と話している。

 午前9時30分〜午後5時30分。(入館は午後5時まで)。2月14日(月)、28日(月)、3月14日(月)、28日(月)休館。入場無料。問い合わせは、新宿歴史博物館03・3359・2131。

【レトロイズム編集部】 

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