直せぬオーディオ機器はない 客の笑顔に励まされ

 音の良し悪しは、個人の好みに大いに依存する。「ただスタジオで、スチューダーが出していた76㌢のオープンリールデッキの音をモニタースピーカーで聞くと、比べ物のないほどリアルな音がします。まあ、これも私の好みかもしれませんがね」。岩瀬さんによれば、まず昔のもの、テープ、レコードの順番で音がいいと言う。特にアンプの音を決定づけるのはトランスだが、かつて多くのメーカーが凌ぎを削っていたこともあって、トランスの質自体がいいのだ。

岩瀬さんが手に持つのは、DAM45(第一家庭電器オー
ディオメンバーズクラブが会員向けに発売した45回転
のアナログ盤)のレコード。クラシック、ポップス、
    ジャズをはじめ、ほぼ全ジャンルの音楽をリリースした   

 オーディオは趣味の世界だ。戦後も決して安いものではなかった。それらを自分で働いて苦労して買ったものだから、手放せないという人は多い。「茨城から、ビクターのミニコンポを持って店に来てくれたお客さんがいました。話を聞くと、お母様が、初めてもらったボーナスで買ったものでした。修理して音が出ると、子供に聞かせ『ほらすごいでしょ』って、自慢していました。そんな光景を何度も見られるこの商売はやめられませんよ」

 現在72歳の岩瀬さんが74歳の客に言った言葉も印象的だ。「その74歳のお客様が、自分の持っているアルテックのスピーカーを修理依頼にいらっしゃって、『これ、僕が死ぬまで使えますかね』っておっしゃったんです。こればっかりは分かりかねたのですが、『アルテックは丈夫なんで使えると思いますよ、でもね、お客様は50年の間楽しんできた。十分じゃないですか』って答えました」

元々リスニングルームに使っていたが、今は物であふれている。宝の山であることに違いない

 直るのならば、客も買った時のことを思うと手放したくない気持ちになる。ただ機械だから長い間に劣化する。それが修理してまたいい音を聴かせてくれることは、よろこび以外の何ものでもない。「そう考えると、私のやってることもまんざら的外れではないと自負しています。オーディオだけではなくて、リユースできるものは直して世の中に出す。再資源化できるものは資源として使っていく、世の中のために少し役立っているのかなと」

 今は、最前線で客に頭を下げ、家にも行き、自分ができることは全部やる。最後に岩瀬さんはこう言った。

 「そこでお客様が満足してくれる。それが何よりうれしいんです」

しーえむじぇーゔぃんてーじおーでぃおしゅうりこうぼう
さいたま市北区櫛引調2-493-3
📞:048-661-5100
営業時間:午前10時〜午後6時
定休日:火
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文・今村博幸 撮影・JUN