伝説のトキワ荘を忠実に再現 昭和の遺産を後世に

 ミュージアムに入った瞬間から、名状し難い雰囲気に自然と引き込まれてしまうのは、その緻密さに由来していると思われる。豊島区文化商工部のトキワ荘マンガミュージアム担当課長・熊谷崇之さんが言う。「2階の廊下を挟んで、左右に先生たちが住んでいた部屋が五つずつ並んでいますが、向かい合う部屋は真正面じゃなくて、半間ずつずれているんです。再現する際にも、半間ずつずらして作りました。そこまで徹底したのは、実際やるからには、極力正確にという使命感のようなものに突き動かされたからに違いありません」

向かい合う部屋は真正面に位置するのではなく半間ずつずれている。こんなところも忠実に再現されている

 全ての部屋ではないが、よこたとくおの部屋などは、作業用の机などが置かれ、当時の様子を伝える。また、共同の台所も興味深い。スペースの両側にはプロパンガスを使うコンロが並び、アルミの鍋やファンタの空き瓶などが雑然と並んでいる。かつて使われていた食器洗い洗剤や奥には流し場。夏はここで行水をしていたマンガ家もいた。おそらく、赤塚不二夫あたりではないかと想像する。

当時の写真などから再現された台所。ガス台の下にはネズミもいる

 再現されたこのミュージアムは、あくまでトキワ荘を後世に伝えるものだが、昭和の文化を今を生きる人たちに伝える意味もある。「1950年代から、再開発とか土区画整備とかで、戦後の面影を残すアパートはかなり数は少なくなりました。だから、そんな文化も伝えていきたいという思いもあります」と熊谷さんは力を込めた。「トキワ荘を紹介するだけなら、パネルでもできるし、一部屋だけ作ってみせるという手もあると思います。でも、上り框(かまち)で靴を脱ぎ、きしむ階段を上って4畳半の部屋が並ぶアパートで、実際にマンガ家たちが生活しながら執筆し、世に羽ばたいていった。アパート全体を再現した意味は、それを肌身で体感していただきたいからなんです」

上がり框の左右には下駄箱、右側には広めの階段。ここを上がりマンガ家たちの部屋へ

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