ドキドキ感が楽しい! 銀塩カメラで撮る幸せ

 暗室に入る工程は、時間も手間もかかるので、その部分はプロに任せても、フィルムカメラの魅力は薄れることはない。特に初心者は、街の信頼できる写真屋さんに現像とプリントをお願いすることを赤城さんは勧める。重要なのはプリントして紙に焼くことなのだ。「紙焼きの良さは、パソコンやタブレットなどのデジタル機器を通して見るデジタルカメラで撮影されたデジタルな写真では味わえない充実感です。最近は、フィルムカメラがブームになっているという話も聞きますが、撮るのはいいが、その後どうしたらいいのかわからないという人も多いんです。カメラ(デジタルでも同じだが)の楽しさは、プリントして初めて完結すると僕は考えています。入り口は装置で、出口はプリント。それがフィルムカメラなんです。撮影しただけで終わってしまうのは、もったいないと思います」 プリントまでの工程を含めてこそフィルムカメラを完全に楽しんだことになるという理屈だ。「僕が一番驚いたのは、若い人たちが、撮った写真をデータ化すると、ネガを捨てるらしいんです。僕の中ではありえない。彼らにとっては、できた写真をインスタグラムなどのSNS(ネット交流サービス)などにあげておしまいなんですね。それはちょっと寂しい気がします」

西村カメラでは、フィルムを使ったキーホルダーのほか、中古のフィルムカメラも販売している。自分好みの一台をじっくりと相談した上で購入も可能だ

 しっかりとした技術を持った街のカメラ屋は、年々減少の一途をたどっているのも現実だ。とはいえ、探せば、日本全国に点在しているのも事実だ。その一つが、赤城さんの事務所の近くにある、プロも信頼を寄せる「西村カメラ」である。西村カメラは、写真制作においてたどるべきプロセスを完成させ、表現の幅を広げることで、その楽しさを人々に伝える店である。 プリントという最後の仕上げのために、2代目の西村隆さんは、客とのコミュニケーションを大切にする。「ネガやポジフィルムを見ながら、お客様とじっくりと話し合います。一コマから新しい表現を見つけて提案できれば、撮影者の新たな引き出しを見つけることもできます。同じネガフィルムから、色みを変えることで、全く違う表現ができるのです。写真の意味合いまでも変えられるんですよ」

帰り際こっそり撮った一枚。「写真は独りで撮る
もの」が持論の赤城さんの孤独感を表現した一枚

 一枚の写真を、自分一人だけで作るのではなく、プロの知恵と力を借りることで、自分の写真世界や表現の幅が、無限に広がっていく。それこそがフィルムカメラの真骨頂だと赤城さんは言う。「カメラが好きなプロでもアマチュアでも、撮影した瞬間にいい結果を想像し、そこに近づけるように工夫します。でも最後にプリントが出てくるまで、どんな画像になるのかわからない。半分はドキドキしますが、半分はそれが楽しさでもあるんです」

 懐かしいカメラを手に話をする赤城さん、その日の気分で相棒(カメラ)を外に連れ出し、思いの丈をフィルムに写し込む赤城さん。どちらの赤城さんも、結局は、ただの「カメラ小僧」そのものだった。

 あかぎ・こういち 1961年東京生まれ。東京工芸大学
短期大学部写真技術科卒。出版社を経てフリー。ポート
レートからスナップまで幅広い分野で撮影。カメラ専門
誌では撮影のHOW TOから新製品カメラのレビューペー
ジを担当。写真集評、写真展評も行う。市ケ谷の「カロ
タイプ」でのワークショップでは撮影指導・講評など。
使用カメラは70年前のライカから、最新デジタルカメラ
まで。プライベートでは自家処理のモノクロ写真制作を
行っている デジカメWatch
(インプレス)で「アカギ
カメラ」、「CAPA(ワン・パブリッシング)で「カメラは
デザイン勝負」、「カメラホリック(ホビージャパン)で
「カメラに宿りし神々の戯れを連載中。著書に「定番カ
メラの名品レンズ(小学館)フィルムカメラ放蕩記
  ビージャパン)など     赤城さんの作例はこちら

文・今村博幸 撮影・JUN

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