ドキドキ感が楽しい! 銀塩カメラで撮る幸せ

 それらの写真と、フィルムカメラとの関係を聞くと、意外な答えが返ってきた。「もちろん、フィルムカメラが好きだし、今話したような写真も好きです。でも、それらの間には、ほとんど関係性はありません」。有り体に言えば、「フィルムカメラだからいい写真が撮れて、デジタルカメラでは撮れない」などということはありえないと彼は言う。では、なぜ彼はフィルムカメラを使うのか? 答えはシンプルだった。「楽しいからですよ」。装置としてカメラが面白いと赤城さんは力を込める。「撮ってなんぼなんです。形がいいとか、動作音がいいとか、感触がいいとか実際にありますが、ごくシンプルな装置によって、なんらかのものが生み出される不思議さは、いつまで経っても飽きることがありません」

フィルムカメラを楽しむためには、当然のごとくフィルムが必要。種類は減り、価格も上がったが、量販店や街のカメラ店でも販売されている。ネットでの通販も盛んだ。写真は西村カメラで実際に販売しているものだ

 しかし、フィルムカメラを楽しむのは、常に面倒が最初から最後までつきまとう。「フィルムカメラだと、ボワッとした画像になるとか、ピントが合ってないところに味わいがあると言う人がいますが、それは間違いです」。フィルムであっても露出をきちんと合わせて機械のポテンシャルを出し切れば、デジタルで撮ったのとそん色ない写真になるのだ。「常に僕の中にある重要なポイントは、デジタルで厳密に計算された露出やピントとは違う、完成されていない画像に対する興味です。そのために、天候や経験に基づいて適正な露出を割り出したり、フィルターをかませたりして、完全と思われる写真に近づけるための工夫が必要です。もちろん、露出やピントが完璧な写真がいい写真かどうかは別にしてです。決して楽な作業ではありませんが、そこがまた面白いところなんです」

カメラマンと写真屋さんの信頼関係が真に魅力あるプリントを生み出す。向かって右が西村カメラ2代目の西村隆さん。現像とプリントのプロだ

 最大でも36枚しか撮れないフィルムを装填し、撮り終わったら巻き戻して暗室に持って行き、フィルムを処理して印画紙に焼き付ける。作業が終わると片付けもしなくてはならない、実に面倒な行為だが楽しい。そして、その先には大きな喜びが待っているのである。彼のワークショップで暗室に入り、一連の作業の最後に画像がホワーっと浮かび上がるのを目の当たりにした参加者たち、特に初心者は、全員が感動する。「まさにマジックを見ているようなんでしょうね」。何十年も同じ作業を繰り返してきた赤城さんにとっても、それは全く同じである。

いわゆるスリーブと言われる、現像後のフィルム。以
前はこうしてつるして乾かす工程が随所でみられた 

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