オレンジ色の列車が運ぶ「淡い恋と旅の思い出」

 旅を豊かにしたロマンスカーは、あたかも戦後、日本が豊かになっていく姿と重なる。昭和という時代に、その姿をくっきりと刻んだのは間違いないだろう。神林さんが解説する。「移動手段として捉えられることが多かった電車が、移動する時間自体を特別な旅の一部へと変えたのです。旅に対する憧れを最先端の技術と熱い想(おも)いで創出し続けてきたのが、ロマンスカーだと自負しています」。都会と観光地を結ぶ特急車両は、旅の楽しさを大きく膨らませた。「列車の中で、ティーカップに入れたお茶を飲む優雅な時間。カップルで進行方向を向いて並んで座るいわゆるロマンスシートで旅に出るワクワク感やときめきを提供してきたつもりです」

曲線で構成された車体は、唯一無二。今見ても近未来的な雰囲気がある

 ロマンスカーに対する、一方ならぬ強い想いは、多くの旅人たちの心のなかに芽生え、簡単には消え去ることはなかった。子供の頃、新宿駅に停車しているロマンスカーの容姿は特別に見えたし、他の電車とは別物のオーラさえ感じた。それは大人になってからも変わることはなかった。小さい頃は家族と、10代後半からは彼女と利用した。「いろいろな方とお話しても、彼女とデートでとか、家族旅行の思い出があるという話が本当にたくさん出て来るんです。ありがたいですね」。そう言って神林さんはうれしそうに笑った。

1927(昭和2)年、小田原急行鉄道(現小田急電鉄)営業開始時に運行した最初の車両の内部。これも貴重な資料だ

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