愛情たっぷり 昭和の洋食に舌鼓 驚きの価格設定も

 味が悪ければ店の将来はないとの危機感も常にある。だからカレーにも、もうひと工夫を加える。ターメリックを入れたガーリックライスとルーを熱した鉄板で供するのもそのひとつだ。熱々の一品は、他では味わえないテイストに仕上がっている。「このカレーを食べに遠方からわざわざ足を運んでくださるお客さんもいらっしゃいますよ」と小黒さんは得意気な表情を見せた。

テーブルにセットされた調味料も、いかにも洋食屋然としている

 定食はおかずのうまさもさることながら、ピカピカ光る米の飯は、香りも素晴らしい。ニンジンや大根など根菜類や玉ねぎ白菜など具だくさんのみそ汁にも、深い真心を感じる。フクノヤのもうひとつの特徴は、全体的に安価であるということ。500円またはそれ以下という驚きの価格設定も多い。

「僕は、この商売を、もうけるためとは考えていません。生活できればいいと。コロナで皆さんが大変な時に、愛情のない料理は出したくない。食べた人がホッとする料理を提供したいと思うんです。それが今の自分のやりがいでもあります」

「安くておいしい洋食を工夫しています」と、チェックのハンティングがよく似合う店主・小黒さん

 料理人としてできる工夫も怠らない。カツに使う豚肉や鶏肉は、塩こうじとヨーグルトに数日漬け込んで軟らかくする。サックリと揚げられたカツは、舌の上でとろけるように崩れていく。いかにリーズナブルにおいしく食べてもらえるかは、料理人としてのチャレンジだ、と小黒さんは言う。「もっとおいしくするにはどうすればいいかを常に考えています。生きている以上、先にはもっと良いものがあると思っていたい。そうでなければ仕事も楽しくないですよね」

年季の入った鏡の縁取りは、かつて どこかで見たことがあるような懐か しさ。映るのは、店に積もった歴史だ

 昔ながらの洋食屋の味には、「腑(ふ)に落ちる感」がある。奇をてらわず、子供の頃から食べ慣れたほっとする味だ。フクノヤにはそれがしっかりと息づいている。

ふくのや
東京都豊島区巣鴨2ー9ー4
📞03・3917・0993
営業時間:午前11時半〜午後2時
定休日:不定休

文・今村博幸 撮影・JUN

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