真空管が奏でる「ラックスマン節」に酔いしれる

 現在ラックスマンでは、フォノイコライザー(レコードプレーヤーとアンプをつなぐ回路)に使われているのも含めて、7機種のアンプに真空管を使う。その理由を長妻さんはこう説明する。「一番は個性的な音です。真空管は、特有の音のひずみを持っていて、人間にとっては『響き』として聞こえるます」。その心地よい揺らぎのある音を創出するためには、真空管は欠かせないデバイスだったし、今でもそれは変わらないのだ。少しいたずらっぽい表情で、小柳さんが敷衍(ふえん)した。「なにより、真空管が刺さっているアンプって格好いいですよね。絵になります。私どもは、そこもすごく重要だと考えています」 

 モノとして愛着を感じなければ、充実したオーディオライフはあり得ないし、長い間使い続けることは不可能だ。その場を占有できるぐらいの、独自の雰囲気。特に真空管を覆うカゴの隙間から見える球管が放つ光は、得も言われぬ空間と時間を創出する。

往年のデザインをモチーフに2017年に改良進化を遂げ
現代も高い人気を誇るコントロールアンプCL-38uC 

 ラックスマンが、国内外最古級のオーディオ機器専門メーカーであることは意外と知られていない。ちなみにイギリスのタンノイ社の創業の1年前に誕生している。創業は1925(大正14)年。もともと額縁などの輸入雑貨を商っていたが、同年の日本におけるラジオ放送開始とともにラジオ部を設けて受信機を輸入して店頭に並べた。するとその音の良さに道ゆく人たちが足を止めた。ラックスマンの音質追求の原点だった。

 ただ問題もあった。輸入したはいいが、パーツが壊れる。その都度輸入するのは、いささか厄介だ。ならば自社で作ってしまおうということになった。「最も有名になったのはトランスでした。発売したラックス式トランスが、切れない(壊れない)し音もいいと評判になったんです」

試聴室にセッティングされた最新かつ最上級の機材たち。FOCALのスピーカーとの組み合わせでクラシックを聴けば、まさに天にも昇る気持ち

 社名はラックス株式会社にして、ブランド名はラックスマンになった。なぜ「マン」がついたかは諸説ある。長妻さんが苦笑いを浮かべた。「私が、会長から聞いたのが、ラックスというのは、明かりの単位であるルクスから来ていて、ラテン系の明るい人が社内に多いので、『明るい男たち』という意味で、ラックスマンになったと」。他にもいくつか説があり、どれも定説には至ってないが、長妻さんの説明には説得力がある。

 いずれにしても、ラックスマンが作った最初のアンプは1958年、モノラルのパワーアンプだった。小柳さんが言う。「当時のことは想像でしかありませんが、弊社はパーツを作っていた。ラックス製トランスという信頼性の高い部品も持っていました。このトランスを使用してアンプを作ろうと。まずはパワーアンプから、市場に送り出そうとした、そんな流れだと思います」

 2018年に発売されたプリメインアンプを手に
笑顔の長妻さん。スロバキアのJJ ELECTR
ONIC製出力管EL84を搭載し、真空管アンプ
製造の伝統をも感じさせる現代的な一台だ 

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