手がかかる「個」ほど可愛い ⁉︎ オーディオの営み

 それでも真空管アンプには、面倒な手間の分を差し引いても、余りある魅力を手にする(耳にする)ことが可能だ。スイッチを入れるのはワンタッチ だが、なんでも早くスピーディーにという流れにならないところがいいのである。さらにスピーカーも意外と厄介者で、セッティングが極めてデリケートだ。置く場所や床からの高さによって、音はガラリと変わる。一般的に、すっきりした(濁りのない)音にするには、スピーカーの下にインシュレーター(音の振動制御材)をかませなくてはならない。大きさから素材までさまざまで、ぴったりと自分の好みに調整するのは至難の業だが、少しずつ自分の理想の音に近づく作業は、たまらなく楽しい。

好きな人は、ユニットを集めて自作のスピーカーを作ったりする。まさに手間のかかることだ

 PCオーディオが主流になろうが、ネットワークオーディオがもてはやされようが、基本は昔と同じだ。言ってみれば、生きた化石のような趣味なのである。ただ一点、昔と大きく変わったところがある。オーディオ機器が非常に安価になったことだ。ユーザーにとってはありがたい。10万円以内で、いや5万円も出せば、かなりいい音に近づける。ただ、前述した通りそこに至るには、面倒な作業をコツコツ続けなくてはならない。

 「ローマは一日にして成らず」だが、オーディオも一日にして成らない。「スピーディー」や「簡単」などという言葉とは無縁だ。しかし、苦労して築き上げたシステムを前にお気に入りの音楽を聴くと、愛おしい気持ちでいっぱいになることだけは間違いないのである。

文・今村博幸 撮影・柳田隆司

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