令和に訪れたい昭和の文化漂う胸キュン喫茶店

 今は利便性重視で、有線放送やネットで配信された音楽を流す店がほとんどだが、こだわる店ではほぼ100%レコードだった。店のオヤジが一枚ずつターンテーブルにレコードを乗せるのが当たり前。時代の流れにどうこういうつもりはないが、いまだに本当にいい音を求めてターンテーブルでレコードを流している店も少なからず残っているのもまた事実だ。その一つが神奈川・鎌倉にある「レスポアール」。主人の飯島光男さんはにこやかに言った。「手間をかけてコーヒーを淹(い)れ、わざわざターンテーブルにレコードを置いて音楽を流す。その手間が僕の仕事なんですよ」。しかも、今時、全面喫煙可をホームページでうたう。「コーヒーを飲むと吸いたくなりますからね」。そう言ってたばこに火をつける飯島さんは、「たばこも文化」だと言いたげだった。

「楽屋」の店内には隅から隅まで文化が散りばめられて、染み込んでいる

 東京・新宿末廣亭に寄り添うようにある「喫茶 楽屋」の店内の隅々に漂うのは、寄席の香りだ。店主・石川敬子さんがハキハキと言う。「寄席の香りがあるから、芸人さんたちがくつろいでくださると思うんです。とてもありがたいことです」。芸人のオアシスとして機能しながら、彼らを支えてきた喫茶店である。「この空間には笑いしかありません。愚痴や泣き言を言うほど、芸人さんは暇じゃありませんからね」とは、石川さんが言った最も印象的だった言葉。芸人の真の姿を知っている者にしか発することができない、心に響くすてきな言葉である。

 そして忘れられないのが、腹を満たしてくれた、喫茶店ならではのフードだ。その最たるものがナポリタンだろう。埼玉・秩父にある「パーラーコイズミ」では、1960年代の終わり頃、秩父という土地に当時誰も見たことも食べたこともなかったナポリタンをもたらし、多くの人々に驚きと喝采をもって迎えられる。「最初は、どんな食べ物なのか説明するところから始まったんですよ」というのは、店主の小泉建(たけし)さんだ。腹ペコだった当時の若者の味方は、厚切りのトーストに具材を乗せたメニューだった。ピザトーストやチーズトースト、ツナが乗ったトーストなどが、夕食前の小腹をちょうどいい感じで落ち着かせてくれた。

 さらに、昭和の喫茶店で忘れてならない飲み物もある。コーヒーはもちろんだが、メロン味のソーダー水、そこに丸いアイスクリームを乗せたクリームソーダ、レモンスカッシュなどは、まさに昭和の喫茶店ならではだ。

 コーヒー、レコード、音楽、フードの全てが一つになって形成された喫茶店は、まさに文化そのものである。そんな昭和の喫茶店を、改めて訪れてほしい。思いもよらぬ新しい発見が必ずや待っているに違いない。

文・今村博幸 撮影・柳田隆司

※新型コロナウイルス感染拡大で、現在取材を自粛しております。当面、特別編を配信する予定です。ご了承ください。

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