100年続く写真館が提供するセピア色の思い出

 昔と変わらないのは、あらゆる人が写真を撮ってもらいに来るという事実である。子供の成長に合わせた撮影はもちろん、いろいろな節目で人は、写真館を訪れる。それは幸せなときばかりとは限らない。「来週から抗がん剤治療が始まるから、髪が抜ける前に、遺影用の写真が欲しくて来たっていう人もいましたね」。そのとき、自分のポートレートの他に、兄や妹も一緒に記念写真を撮った。写真の上がりを見たら、誰もがすごくいい表情をしていたという。「僕の腕だけではその表情は撮れません。いい写真が撮れるのは、お客さんの人生のリズムが生み出すパワーです。カメラマンの仕事は、そこにタイミングを合わせてシャッターを切るだけなんですよ」

堂々たる容姿のアンソニー型の大判カメラ。脚の部分は、今では考えられないぜいたくな作りだ

 話を聞いているうちに、写真館で写真を撮るという行為が、尊いことのように思えてくる。ほとんどの人が、スマートフォンという写真を撮る道具を所有する今の時代、写真館の存在意義があるのは間違いない。「写真館とはなんなのか?」改めてそんな質問を投げかけると、柳田さんは逡巡(しゅんじゅん)してこう言った。「人生に区切りをつける場所じゃないでしょうか。けじめと言ってもいい。写真を撮ることで、いったん立ち止まり、リスタートを切れるんだと思うんです」

写真館は、家族で営なまれている。3代目の 隆司さん夫婦と2代
     目夫婦が店の前で。カメ ラを手に持つお父さんの姿がりりしい      

 そんな場所は、今他にあるのか甚だ疑問だ。少なくとも、柳田さんは、人々の「人生の区切り」を記録し続けてきた。時に淡々と、また時に自身の心に何かを刻みながら。

 写真館を訪れる人のドラマは、いくら時を経ても変わらないアナログの世界だ。感情的で感傷的、そして魅力的なのである。

やなぎだしゃしんかん
神奈川県横須賀市上町3-53
📞046-851-0880
営業時間:午前9時〜午後6時
定休日:不定休
https://yanagidaphoto.com/

文・今村博幸 撮影・岡本央

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