100年続く写真館が提供するセピア色の思い出

 さらに写真館には、1900年代の初頭に製造されていた、アメリカのアンソニー型大判カメラが飾られている。撮影者が黒い布を被ってピントを合わせ、フィルムを一枚ずつセットする。手間と時間をかけてなくてはならないこの機材は、初代と2代目館主両夫婦も使っていた。「このカメラで撮影するとき、モデルさんは何秒も動けないんです。そのために、首を抑えて固定する特殊なスタンドもどこかにあると思いますよ」

かつての写真館には必ずあった、時代を感じる椅子が撮影用に用意されている

 もう一つ残っているのが、表紙が布製のアルバムだ。一昔前の家庭には、たいていあったし、いまだに持っている人も少なくないはずだ。その一つひとつには、おびただしい数の白黒写真が貼られ、柳田家の人々が表情を作ったり、すまし顔で現れる。思い出を懐かしむきっかけとなるアイテムが、まだ印画紙に投影されたものしかなかった頃の、輝かしい遺物である。手触りが懐かしさを感じさせるアルバム。貼られている写真は、プロのカメラマンが撮った、一味違う写真ばかりだ  

 時代は移ろい、誰もが気軽に写真を撮り、紙で見せ合うことはほとんどなくなった。写真のあり方自体が変わってしまったのだ。しかし、写真や撮影に絡む人の営みは昔とまったく変わらない。「成人式の日に、羽織袴、スーツ姿の男の子が8人で来たんです。『ここなら撮ってくれるんじゃないかと思って』と言って店に入ってきました」。晴れの日にみんなの姿を写真に残したいという。価格を説明すると、新成人たちは割りきれない分を誰が多く出すか、ジャンケンで決めた。「その中の一人が海外に住んでいて、誰が彼へ送るためのお金を出すのかも、ジャンケンで決めてました。みんなうれしそうでした。ほほえましかったなあ」と言う柳田さんの目は温かい光を帯びていた。

布張り、黒い台紙の時代感あふれるアルバムには、柳田家の面々の写真がたくさん残る

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