絶品の蕎麦と昭和な絶景に舌鼓を打つ

 つゆに関しても、第一に重要視するのは出汁(だし)である。一本釣りで釣ったカツオを使ったかつお節を朝一番で削って出汁をひく。そこに全く違う工程で作られた辛汁とかけ汁のかえしを合わせる。最終的にどんなつゆなのか、という質問に対して、池田さんは自信を持って答えた。

座敷と庭の間の廊下(縁側)。かつての日本家屋を思わせる風景が、心を和ませてくれる

 「しょうゆとかつお節味両方のバランスが取れたもの。かけ汁ならみりんを加えずに、出汁としょうゆのおいしさを大切にします」。つけ汁に関して、池田さんはさらにきめ細かい基準を付け加えた。「蕎麦湯をいくらさしても、いつまでも出汁の味わいがある。そこが一つの目安だと思っています」

座敷に座ると雪見障子の先にはなまこ壁も見える

 創業は1856(安政3)年。鮫洲の八幡神社の灯篭(とうろう)の下に、お布施をした店として「吉田家」の名前が残っている。その後、紆余(うよ)曲折を経て、現在の立会川に店は移る。1916(大正5)年のことだった。旧東海道に面した店の裏の家屋を買ったのが82(昭和57)年。座敷席として開業したが、この部分こそが、吉田家の大きな魅力の一つになっている。「前に人が住んでいたままの形で、表の店と繋げたんですよ。池を見下ろす廊下も漆喰(しっくい)の壁や建具、欄間もそのまま使ってます」

「もう70歳も過ぎたから、いまさら金儲けはいい。それより、うまい蕎麦をお客様に食べてもらうことの方が大切だよ」と店主の池田さん

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