銭湯のち釣り堀!? 両者の深い関係とは?

 柳田さんの、筋を通す人柄がよく現れた言葉である。いろいろと話すうちに、結局なかった話へと落ち着きそうになった。しかし、事はそれで終わらなかった。ひと山もふた山もあった後、最終的には銭湯のオーナーが柳田さんに「借りてくれないか」と言い出したのである。「最初は、広すぎるし事務所にするにもな、と思ったんですけど、結局は借りることにしました」。借りたはいいが、柳田さんはどうしたものかと頭をひねる。思いついたのが釣り堀だった。舟を所有するほどの釣り好きでもあったのも発想の元になった。

「広いし水も流せるし、釣り堀ができるなと思い、自分でやってみようかなって」。その時の柳田さんの脳裏には、子供の頃の記憶が蘇っていたという。「ちょっとした倉庫にいけすをおいて、遊ばせる釣り堀店が近所に何件もあったんです。子供たちはみんなそこへ行くのを楽しみにしていたし、大人もたくさん来てました。そんなことを思い出してね」

併設された鉄板焼きの店。「釣りで盛り上がり、鉄板焼きでさらに盛り上がったそのテンションのまま帰っていただければ」と柳田さん

 小説にでもなりそうな、数奇な巡り合わせである。「元をたどれば、僕がこの銭湯を借りることになってしまったところから始まりました。釣り堀店を自分で始めるなんて、まったく思ってもいませんでしたよ」。とはいえ、本業があるので、ここで儲けようとは思わないと柳田さんは言う。「ゴルフのシミュレーションの機械なんか置いたらもっといい商売になるんでしょうけど、それは違うと思いましたね」

 客の年齢層は幅広いと、柳田さんは胸を張る。「僕はまず、子供に釣りをやらせてあげたいんです。釣りを体験してほしいとも思ってます。そのせいか、お客様の半分以上は子供と初心者です。釣りデビューがウチって感じですね。お年寄りも若いカップルも来ます」

少し時間がかかったが、見事に立派な鯉を釣り上げた柳田さん。自分の店ながら、ちょっと満足そうな表情が印象的だった

 初心者が来るのは、彼らに対して優しいからだ。常駐する3人のボランティアは、釣りのベテラン。餌のつけかたから、ルールやマナーなどもきちんと教てくれるし、ちゃんと釣らせてくれる。釣り堀にはさまざまな人たちが集まってくる。そんな中で、ちょっと心温まる話もあった。「母親に引き取られた母子家庭の子供がいてね。父親は月に1回しか会えない。そんな彼が、子供を連れて遊びにくるんです。この前来た時には、先週会ったから今月は会えないと思っていたら、『パパにもう一度会いたい』って子供が言ったらしく、今月は2回会えましたって来ましたよ。うれしそうだったなあ」とほほえんだ。

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