真空管にこだわり25年 ロマンを売るメーカー

 こうして始まった「株式会社 トライオード」は、25年を超えた今でも、真空管アンプの専門メーカーとして、日本のオーディオをけん引する存在へと成長を遂げたのである。

 会社を存続させていく中で、山﨑さんにはいくつかの理念がある。まず最初に客に寄り添うことである。「トライオードというブランドの音を決めた自分の顔を見ていただきたい。だから、イベントには極力出て、お客様と直接話しをします。それがブランドの使命だと思うからです。古いと言われるかもしれませんが、作り手がユーザーと共有するべきものをきちんと共有したい、というのが、僕のポリシーです」。それは、地を這うような地道な努力によって、トライオードの知名度を上げてきた山﨑さんの手法と全く矛盾しない。パワー・アンプの背面。スイッチで、音量ボリューム付きアンプに切り替えが可能。4段階の入力ゲイン切り替えスイッチも装備されている

 当初は、直販だけで売っていければと思っていたと山﨑さんは言う。「ところがある時、パイオニアの営業の人に言われたんです。オーディオは、きちんと小売店におろして売ってもらうのが本筋なんだと。そこがターニングポイントでしたね」

 山﨑さんはアンプを手に、自ら全国に足を運び、小売店と話をしながら自分の作った音を浸透させていった。もう一つ、山﨑さんがこだわりるのは価格だ。現在トライオードでは、15〜16製品を製造しているが、最も廉価なアンプは8万円からある。「オーディオは、万人の楽しみのはずです。だから、手ごろな価格で売りたいと考えて実行してきました。買っていただけるのはサラリーマンの人たちが多い。彼らが気楽に買える値段を思うと、あまり高価なものはどうかなと。せいぜい20万円ぐらいに抑えたいと思ってきたし、ずっと貫いてきました」

子供の頃から音楽に親しみ、最終的にも音に関する仕事にたどり着いた山﨑さん。「DNAなんですかね」とポツリと言った

 音に関して言えば、もちろん真空管にとどめを刺す。現実的にも、トライオードは真空管アンプの代名詞として認知されているといっても過言ではない。「中でもこだわっているのは三極管。一番最初にその音にほれたわけですから」。音の特徴は?と聞くと、山﨑さんは即答した。「艶(つや)っぽくてコクがある。どんな音も濃厚に再現します。音色も独特。トランジスターでは絶対に出ない音です」

 オーディオの話をするとき、原音再生という言葉がよく出るが、山﨑さんは違うと言う。「真空管のガラスの響きとか、相乗的に醸し出される音もあります。原音には、ガラスの響きが入っているはずもありませんが、それが真空管の味なんです」MUSASHIには、KT150という極めてパワフルな三極管が搭載されている

 山﨑さんにとっていい音とはなんなのか? 「一人ひとり違うと思ってます。自分の持っているソースをいかに出すか。もし、鳥肌が立つぐらいの音が出せればそれがいい音だと思います」。自分が好きな時に好きな音量で聴けるいい音を実現するのがオーディオ機器だと山﨑さんは力説する。「その音が出せるのが三極管なんです」

コメント

  1. 町田 公彦 より:

    頑張って下さい。!!
    応援します。

    • SHIN より:

      町田様

      レトロイズム〜retroism visiting old, learn new〜をご愛読いただきありがとうございます。
      創刊して間もないですが、後世に残したいレトロな空間やモノなどを紹介する記事を配信していきたいと思っています。
      ご期待ください。

      レトロイズム編集長・SHIN