縁側と庭、水影が楽しい下町の銭湯

    また、数年前に催した、「THEクイーンオブ縁側」と銘打ったイベントも、盛り上がった。「女性にも縁側を楽しんでもらえるように、水曜日だけ男女の風呂を取り替えたんです。その時、縁側で撮った写真を応募してもらい、投票結果で、『クイーンオブ縁側』を選び、最終的には私が撮って発表しました。それもこれも縁側があったからこそできたことでしたね」

縁側と庭が見える脱衣場と風呂場は開放感抜群。取材時は窓が開いていて、これ以上ないほどの気持ちのいい風が流れていた

 肝心の風呂は、風呂釜の底から気泡を出すバイブラ装置が備えてあったり、赤外線風呂で体をポカポカにしたり、また、血行を良くして発汗作用のあるゲルマニウム風呂など、あらゆるリラックス効果が期待できる浴槽が用意されている。そして使う水は、「きれいな井戸水」である。「東京はまだ井戸水が湧いていて、使ってる銭湯は多いと思いますよ。うちのは、地下180メートルぐらいから吸い上げてます」。井戸水が使われていると聞くだけで、なぜかうれしくなってしまうのだ。

北千住駅のそばにある閻魔(えんま)を祀(まつ)った寺社にちなんで描かれた地獄の図。「悪いことをすると、こうなるという教育の意味もあるかもね」と松本さん

    最後に一つ、タカラ湯を訪れたらぜひ見てほしい景色がある。太陽光が庭の池や浴槽の水に反射にして、天井などに映る「水影」だ。西向きに解放された窓からは午後になると、ふんだんに日が差し込んでくる。しかしその影は、当然のことながら、晴れた日しか見ることはできない。さらに、開店する午後3時から日が沈むまでの数時間に限られる。しかも、季節によって、あるいは時間によって、水影の映る場所は移ろい、多彩な表情を見せるのだ。

宮造り千鳥破風(ちどりはふう)の店構えは圧巻。横に回ると煙突も見える

「銭湯の壁はタイルで覆われているか、ガラスがはめてあっても、大抵は曇りガラス。透明なのはあまりないと思います。うちは、庭があってその先に高い塀があるので、素通しの窓で大丈夫なんです。ちょっと開放感がありすぎますかね」

 水影――。忘れていた風情のひとつである。

たからゆ
東京都足立区千住元町27-1
📞03・3881・2660
営業時間:午後3時〜午後11時
定休日:金
文・今村博幸 撮影・柳田隆司

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