大正ロマンいっぱいのアンティーク店

 最初は庶民的な浅草という街で店を開きたいと考えていた。物件を探していると、ポルノ映画館の上が空いているというので、それはそれで面白いと借りることにした。ところが、先方の一方的な都合で、その約束は反故(ほご)にされる。そのわずか1週間後に、まだ「表に出ていない古い物件」があると言われて紹介されたのがこの場所だった。クモの巣だらけの物件は、いわくありげな古い館といった感じだった。「館の番人として雇われたんですかね」。そう言って稲本さんは微笑(ほほえ)んだ。

店主の稲本淳一郎さんは、様々な仕事を経験した後、この店にたどり着いた。話していると彼の心の美しさがよくわかる

 「いいものは普遍的につながっている」。それが、稲本さんのポリシーだ。例えば、Aという古いものがあったとする。親子三代がいると、おばあちゃんはAを使っていた。お母さんは当然のように家にあるモノとして受け入れる。でも、若い娘は何これってなる。そうやって、親から子へと受け継がれていく。そんなモノを売りたいと稲本さんはいう。しかも、そのAという古くから存在するモノは、自分のルーツを教えてくれるというのだ。

ユニークな形のランプが天井からぶら下がる。壊れているものは極力直してから販売するという

 この店を開くまで、稲本さんはさまざまな仕事に就いた。今思えば、それはまさに自分探しの旅だった。「自分のルーツを知りたくて、いろいろな世界に飛び込んで、ヘビーメタルのバンドを組んでみたりもしましたが、全然しっくりきま せんでした。そんな時に、この場所に出合ったんです」。ここなら、昔から脈々と続く文化を吸収できると稲本さんは考えた。なぜなら、建物自体に歴史的な事象がたっぷりと染み込んでいると感じたからだ。「崩れる前に、この場所で仕事がしてみたいと心の底から思いました。ファッションを中心に、あらゆるものを網羅しながら、古い日本を知ることが自分の目的でもあります」

迷路のように入り組んだ店内は、宝探しに来たようだ。歩くだけでも興奮を抑えられない。メガネなどの小物から洋服、和服など商品はさまざま

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